先日、「Ustream、ニコニコ生放送、どっち?」というエントリでUstreamとニコニコ生放送の違いを軽く(自分の理解の範囲で)説明しました。
- 「Ustream」は動画を放送することが主軸
- 「ニコニコ生放送」は放送者と視聴者の1対nコミュニケーションが主軸
まとめると単にこれだけの内容だったのですが、このエントリを書いたところ「ソーシャルな部分の説明が足りないのではないか」といったご指摘などいただきましたので、もうちょっとこの2者の違いについて補足したいと思います。
■外部導線の違い
2月10日のツイートより:.@namahoso 両者は放送に誘導するための導線が結構違いますね。UstがTwitterのストリームを使って導線を拡散しているのに対して、ニコ生はコミュニティが閉じているのが弱点です。一方でニコ生はニコニコという閉じた中でのコミュニティ形成と導線は物凄くがっちり作ってます。
posted at 15:46:48ニコニコは良くも悪くもニコニコ内に閉じた世界でユーザを滞留させる、mixiと同じアプローチの作りになっているので、それが独自の文化と「外から見て気持ち悪く見える」要因。かといって、UstのSocial Streamを見ていると全てのコメントが外に垂れ流されるのもなぁ。
posted at 15:49:54
外部導線は、2者(ニコニコ生放送・Ustream)で大きく違うポイントのひとつです。具体的には「その放送の視聴者をいったいどこから集めてくるのか?」とでもいいますか。ここにはサービスの設計思想がかなり色濃く反映されていると言ってもいいでしょう。
ニコニコ生放送は「ニコニコ動画という強大なユーザベース」が強みであり弱点でもあります。ニコニコ動画は、ニコニコという閉じた世界に膨大なユーザを囲い込み、この世界の中でぐるぐるとユーザを滞留させることでサイト全体を強化する戦略を取っています。なので、「ニコニコ生放送」へもニコニコ動画の膨大なユーザを視聴者として誘導するためのさまざまな仕掛けや施策を打ってあります。驚くほど綿密に、網の目のように「ニコニコ」というコミュニティの中での導線が敷かれているのです。
そのため「ニコニコ生放送」へは膨大な「ニコニコ動画」のユーザを導入しやすい(=集客しやすい)というのがメリットとなるのですが、トレードオフとして「視聴者にニコニコの色が付いている」「コミュニティ外から見てよくわからない(外から見えない)」「外部の視聴者を誘導しにくい」といったデメリットを抱えています。
一方、Ustreamは(当初Ustream内でのゆるやかなコミュニティ形成機能はあったのですが)Twitterとの連携機能(Social Stream)が用意されてから一気にブレイクしました。つまり、Twitterで既に完成しているコミュニティないしソーシャルなつながりをそのまま引き込む戦略です。Ustream自体でのコミュニティ形成をあきらめた、というか、その機能をTwitterに丸投げした格好ですね。
UstreamのTwitter連携のどこが強いのか、はシンプルで「放送を見ながらの発言が、発言者当人のTwitterフォロワーからも見える」こと。Ustreamの視聴情報が勝手にTwitterのソーシャルネットワークに伝播する仕掛けになっているわけです。そのためTwitterネットワークがそのままUstreamの外部導線となります。メリットは「既存のソーシャルネットワークをそのまま活かせる」こと、デメリットは「Ustreamに興味のない利用者まで巻き込んでしまう」「Ustream独自のコミュニティを形成しにくい」こと。(ちなみにこのあたりは、TwitCastingがTwitterを外部導線に利用しつつコメントをReply形式にすることで可視範囲を制限したりとなかなか絶妙なバランスで設計されていてたいへん興味深いです)
先般のCNETでのアンケートではこのあたりの「ニコニコ生放送のデメリット(閉鎖性)」が主に槍玉に挙がった、という印象です。
この両者の違いで言えば、Ustreamのほうが現代の風潮に乗った仕掛けであることは事実ですし、強力でしょう。
ここの勝負は、ニコニコ生放送(ニコニコ動画)側が今後いかにニコニコ外のコミュニティから流入させる仕掛けを作れるか、がポイントになってくるのかなあと思います。
■コメントすることへのハードル設定
この項はほぼそのまま伊予柑氏(@iyokan_nico)の受け売りというか発言の丸パクリになってしまうのですが、まとめておきます(いや、この項に限らず他の項でもかなり彼の発言に影響はされてるんですけど)。
先の『「ニコニコ生放送」は放送者と視聴者の1対nコミュニケーションが主軸』というまとめを補強する内容にはなるのですが、あらためてニコニコ生放送とUstreamのサービス設計思想が端的にあらわれている違いが2点あります。
- ニコニコ生放送は基本匿名
匿名であるがゆえに発言へのハードルが下がります、ということなのですが、これは「匿名だから無責任な発言が可能」という意味ではありません。
伊予柑氏は「お笑いを劇場で見て“無名の観客”として反応するのと、友人と面をあわせて友人のギャグに反応するのの違い」という表現をしましたが、常に発言にIDが伴なう(=UstreamのSocial Stream)形式の場合、放送の視聴者が少人数である時に微妙な発言しにくさ、発言することによるしがらみのようなものがどうしてもつきまといます。基本匿名の場合、そういう「気まずさ」に対してのハードルが下がるであろう、ということです。 - 視聴者数表示の違い
Ustreamの視聴者数表示(Viewers)は現在リアルタイムに視聴している人数をダイレクトに表示しているのに対し、ニコニコ生放送の表示は「放送枠の累計(のべ)視聴者数」であり数字が減ることはありません。
この違い、一見単なる技術的な違いか、「たまたま」の違いのように見えますがそうではありません。実は初期の頃はニコニコ生放送でもAPIを使用することでリアルタイム視聴人数が取得できた(標準UI上で表示はされなかった)のですが、ユーザ側でそれをツールを使い取得することが一般化したらわざわざ無効化されたという経緯があるのです。つまり、ニコニコ生放送では、あえてリアルタイム人数を表示しないように明確な意思をもって設計されていると考えられます。
この「リアルタイム視聴者数が表示されない」というのは、匿名化と同じような…つまり、「放送者と視聴者のしがらみを断ち切る」効果を生みます。「自分がこの放送を閉じたらViewersが減るんだよな…」「いま俺1人しか見てない…って、発言しにくいよなあ…」という感情を排する効果が出てくるのです。
この2つの違いは、ともにニコニコ生放送側に対して「コメントをしやすい」(コメントへのハードルを下げる)効果を生み出すための工夫として盛り込まれているものと思われます。そこが、特に視聴者の少ない放送に対しての(ニコニコ生放送の)コメントのしやすさ、コミュニケーションのしやすさへと繋がっているわけです。
前回と同じく結論は「ニコ生もUstもどちらを選ぶというわけではなく結構違うよね」ということになるのですが、こう比較分析してみるとなるほどたしかに結構違うものなんだなぁ、と納得いただけるでしょうか。
単に対立するのではなく、両者の特徴を活かした使い分けをしたいものですね。