横浜市大中国人留学生 電気通信事業法違反容疑で逮捕(MSN産経ニュース)
埼玉県警浦和東署と生活安全企画課は15日、電気通信事業法違反の疑いで、横浜市立大学2年生で、中国籍の同市南区浦舟町の范●(●=貝2つ)容疑者(27)を逮捕した。
浦和東署の調べでは、范容疑者は平成20年10月~21年7月までの間に、無届けで自宅にサーバー2台を設置し、運営した疑いが持たれている。
浦和東署では、范容疑者のサーバーには平成21年2~7月にかけて、主に中国から延べ約170万件のアクセスがあったことを確認。同署では、范容疑者が無届けでサーバー上に企業サイトのリンクを張り、企業側から約600万円の報酬を得ていたとみている。
21年1月下旬、さいたま市緑区の大学生から「オンラインゲームの仮想マネーが盗まれた」との相談を受け、浦和東署が調べていたところ、范容疑者が無届けでサーバーを設置している疑いが判明した。
(強調は引用者)
このニュースを読んでぶったまげた人も多いんでないかと思います。「無届けで自宅にサーバー2台を設置し、運営した疑い」で「電気通信事業法違反の疑いで逮捕」。
えええ!自宅サーバに届けが必要!?届けないと逮捕!?
あわてて電気通信事業法を読んでみても、総務省のサイトを読んでみてもいまいちハッキリしません。というわけで、総務省関東総合通信局・電気通信事業課さんと、該当の事件を取り扱った埼玉県警浦和東署さんに問い合わせ、根堀葉堀聞いてまいりました。
私が問い合わせた範囲内での情報をまとめますが、より具体的には「電気通信事業参入マニュアル[追補版]― 届出等の要否に関する考え方及び事例 ―」(pdf・総務省電気通信事業部データ通信課)もごらんいただくとカンペキだと思います。
- いったい何をするのに届出が要るの?
「電気通信役務」を行う「事業」である「電気通信事業」を行うためには届出が要ります。…と言っても何がなんだかワカンナイ! - 「電気通信役務」って?
まず最初によくわからないのがこれ。基本的な考え方としては、「他人の通信を媒介する」ことです(より正確には他人と自己との通信なども状況によっては含まれるんですが、そういうのはまずたいてい「自己の需要」なので電気通信役務にあたるんだけどセーフとして忘れます)。他人と他人の通信(電話とかメールとか)を加工せずに繋ぐのが「電気通信役務」。「加工せず」。ここ重要。 - 「事業」って?
「他人の需要に応じて」「電気通信役務を利用者に反復継続して提供して、その対価として料金を徴収することにより電気通信事業自体で利益を上げようとすること、すなわち、収益事業を行う場合をいう。」ただし、「公益法人や非営利団体が原価を償う程度の有償性をもって行う収益事業も含まれる。この場合、現実に利益が上がることを要しない。」逆に言えば、お金を全く取ってなければセーフです。
わかりました?
つまり、
- Webやblog、掲示板を設置したりしてみんなに使わせたり書いてもらったり見てもらったりしているのは「他人の通信を媒介」しているわけではないのでセーフ
- 共用ftpサーバなどを立ててファイル交換に使ってたりしても、「他人の通信を媒介」(相手先を指定して「通信」しているわけではない)ではないからセーフ
- 「大阪弁プロキシ」みたいな、プロキシサーバで何か変換したりして遊ぶのは「加工」しているため通信を媒介しているわけじゃないのでセーフ
- メールサーバを立てて、メールアドレスを発行してみんなに使ってもらってるのは「他人の通信を媒介」しているので…
- 自分用や家族用だけで使ってるだけなら「自己の需要」か「事業」じゃないのでセーフ
- 友達に使わせていても、お金をまったく取っていなかったら「事業」じゃないのでセーフ
- 友達に使わせていて、いくばくかでも運営費としてお金を取ってたら「事業」なので要届出
ということです。これでだいぶイメージつかめてきたでしょうか。
ところが、ここでひとつ重大な注意があります。
「他人の通信を媒介」する「事業」をしていれば、それがたとえ自宅サーバじゃなくレンタルサーバを借りていても届出が必要なのです。
この場合、レンタルサーバを提供している業者も「電気通信事業者」ですが、その設備を借りてたとえばメールアカウントをお金取って貸してたら、アカウント貸してるほうも「電気通信事業者」になります。友達同士で運営資金出しあって共用のレンタルサーバを借りてるような場合、みんなの「自己の需要」で共同で借りてる体ならいいですが、誰か代表者が取りまとめて継続してやってるような場合は事業とみなされちゃう場合もあるかと思います。って、まぁそれが問題視されることはまず無いとは思うんですけどねぇ。
…とまとめたところで、さて、疑問が出てきます。
冒頭の記事には
「無届けで自宅にサーバー2台を設置し、運営した疑い」
「同署では、范容疑者が無届けでサーバー上に企業サイトのリンクを張り、企業側から約600万円の報酬を得ていたとみている。」
という表現があります。この記事を読む限りでは「普通に自宅サーバを置いていただけ」に読めなくもないです(それが不安をかきたてちゃうわけですが)。これ、具体的にはどういうことをしていたのでしょう?
それも、この事件を扱った埼玉県警浦和東署に聞いてみました。
もちろん「事件の詳細を教えることはできないのですが」との断りはありましたが、結論から言うと、本事件では「他人の通信を媒介する」「事業」を行っていたので逮捕容疑となった、とのことです。記事にある「企業サイトのリンクを張り、企業側から約600万円の報酬を得ていた」という表現も正確ではなく「通信を媒介する事業の報酬として得ていた」のが正しい、とのこと。
当然記事にもある「オンラインゲームの仮想マネーが盗まれた」という件が本筋なのでしょうが、逮捕容疑そのものも「自宅サーバを無届けで設置していた」から、というよりは「そこそこの規模の電気通信事業を在宅で無届けでしていた」というほうがニュアンスとしては近いみたい。
以上が、私が総務省さんと埼玉県警さんに問い合わせた内容のまとめです。
あくまでも素人が電話口で問い合わせた内容について、自分なりにまとめたものなので正確性については担保しきれないところはあります。が、ほとんどの人は全く問題ないということだけは間違いないんでないかと思います。総務省の方も(立場上そうは言えないと思いますが)電話口で「気にしすぎですよー」オーラを発してました…。
※さらに補足
まだ伝わりきれてない人もいるようなので補足します。
自宅にサーバを置くことは問題ありません。届出が必要なのは「通信を媒介する事業」です。たとえば自宅サーバのblogでアフィリエイト収入をあげてようが、それは「通信を媒介」しているわけじゃないので問題にはなりません。
ここから先は推測になりますが、おそらく今回の事件で摘発されたのは、発覚のきっかけが「オンラインゲームの仮想マネーが盗まれた」という件だったことも考えて、中国のRMT業者が、IP規制をかいくぐるために日本国内に置かせていたプロキシサーバだったんじゃないかと想像しています。これは、「他人の通信を媒介する」ので、お金を取って運営すれば「電気通信事業」にあたり届出が必要なんです。そして、届出が必要なのに、していなかったので「電気通信事業法違反」となったのだと考えています。
何が問題なのか、正確に把握すれば別に怖くもなんともない普通の事件でしかありません。必要以上に怖がる必要はありませんよ!
※補足2(19:00)
やはり件の逮捕容疑は、「電気通信事業」に相当するものだったようです。
無届けで自宅にサーバー設置、中国の利用者向けにゲームサイトに接続 中国人の男逮捕(FNNニュース)
2008年から2009年7月までの間、国に無届けで、神奈川・横浜市南区の自宅マンションに、海外からのアクセスを中継するサーバーを設置した疑いが持たれている。もちろん、届出さえしていればこの件でも問題なかった(届出そのものは簡単です)し、警察の狙いは「電気通信事業法違反」ではなく別にあるのだとも思います。(そして、そういうやり方が正しいものかどうかは私はコメントしません)
利用者は、中国に住む中国人で、海外からの接続が禁止されている日本のオンラインゲームに参加していたという。
■せっかくなのでこのへんも見ていってね!
・電子ペーパー黒板 Boogie Board 実機レビュー(動画あり)
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・いつでもどこでも凧をあげられるモバイル・カイト(凧)