回答は今のところUstream圧勝・ニコニコ生放送けちょんけちょんという感じ。まぁみなさんが言っていることもわかるっちゃわかるのですが…。いや、こういう結論に達するのはよくわかるのですが、それだけで止めてしまうのはもったいないなあ、と。
このアンケートを見て思うのは、なぜこういう風に「同じインターネット・ストリーミングサービス」なのに全く違う「視聴者層」となるのか。それは、ニコニコ生放送とUstream、表面的には「インターネット放送を行うためのサービス」ということで全く同じものなのですが、実際にサービスを見るとこれがまた結構サービスの設計も思想も、そして実現していることも違うからではないかと思います。
Ustream
- 放送も視聴も無料、放送時間に制限はない。1番組あたりの同時視聴数も基本的に制限がない
- 視聴者からのフィードバックは「Chat」と「Social Stream」で、放送動画の横で行われる
- 「Chat」はリアルタイム性の高いIRCチャット。ただしクライアントや使用できる環境に制限がある
- 「Social Stream」はTwitterのストリーム表示。たいていは表示までのタイムラグがある程度ある
- 「Chat」は匿名に近い(/nickをつけたりログインしていたりしたら別)が、「Social Stream」はTwitterのアカウントによって発言者が特定される
- 放送は放送主の指示で録画をアーカイブし残すことが可能。ただし残るのは動画のみ
ニコニコ生放送
- 放送は有料会員であることが必要、視聴は無料会員登録が必要。放送時間は基本30分間。1番組あたりの同時視聴数は「アリーナ」500名「立ち見」500名
- 視聴者からのフィードバックは「コメント」で、「アリーナ」と「立ち見」それぞれ別のルームで分離されている。放送者からは「アリーナ」しか見えない。放送動画の横と放送画面に重ね合わせる。コメントの色や大きさ・位置などもコメント投稿者が制御可能
- コメントは非常にリアルタイム性が高い。ほかに「ニコニコ動画」からの動画引用機能や、アンケート機能などがある。
- コメントは基本匿名
- 録画は放送後7日間に限り「タイムシフト」視聴が可能。コメントも再生される。
こう特徴を並べてみると、
- 「Ustream」は動画を放送することが主軸
- 「ニコニコ生放送」は放送者と視聴者の1対nコミュニケーションが主軸
であることが明確にわかります。
ニコニコ生放送で同時視聴数に制限がある(500名単位で「アリーナ」と「立ち見」にわかれている)のは、「それ以上視聴者を増やしてしまうとコメントが読み切れないから」そういう設計になっている、と聞きます。つまり、ニコニコ生放送は「放送者がコメントを読むことが前提の設計」になっている一方、Ustreamは「コメントは読まれないことを覚悟した設計」になっている、というわけです。
(実際Ustreamで視聴者が多い放送の場合、Social Streamはまったく読み切れませんし、そもそもChatとSocial Streamでチャットルームが最初から分離している段階で「同じチャットルームにいる視聴者間のコミュニケーション」は期待していても、「視聴者と放送者のコミュニケーション」はあまり期待していないことが伺えます)
これはどちらが良いとかどちらが悪いとかではなく、サービスの立ち位置が違うのだと思います。
動画を垂れ流す(「ダダ漏れする」)のには制限時間が無く動画を録画可能なUstreamが便利でしょう。一方、視聴者とのコミュニケーションを重ねながら放送を行う、コミュニケーション放送スタイルだと、録画にコメントが残らないUstreamはちょっと厳しい。
動画を見ながら議論を重ねるような「発言者の顔が見える会話」を行うのであればUstreamのSocial Streamが便利です。一方、お笑いを見ながらドッとみんなが盛り上がるような「無名の群集による空気感」を楽しむのならニコニコ生放送のコメントシステムに一日の長があります。
このように、ざっくりと言ってUstreamは議論向け、ニコニコ生放送はエンタテインメント向けという方向性の差異があります(※本稿最後のTwitter引用参照)。そのため視聴者や放送者の傾向にも差が出てきますし、その差が冒頭のアンケートの回答に出てきているのではないかと考えます。
では、ここで問いを戻します。
「Ustreamとニコニコ生放送、使うならどっち?」
もちろん、いろいろなスタンダードなWebサービスを組み合わせ、オープンなシステムを構築するのが流行のこのご時世で、無料とはいえ視聴にすら会員登録を要求するニコニコ生放送はある意味時代遅れです。
が、「どちらを使いますか?」というザックリとした問いかけと、ニコニコはガキ向け!…みたいな乱暴な、切って捨てる論調で「Ustreamの勝利!」とするにはあまりにももったいない、Ustreamに用途を「束ねる」のはもったいないほど、この2者のサービスは指向している方向が違います。
先に説明したコメントに対する扱いだけでなく、ほかにも番組への制限のかけかたやトップページの構成、オフィシャル番組などでも方向性の違いは際立っています。たとえばニコニコ生放送は視聴者とのコミュニケーションを主軸とする一方、30分区切り・番組表・予約システム・コミュニティシステムなど、企画をきちんと立て「番組」を設計して放送することにシステム上のインセンティブを用意しています。一方、Ustreamは即座にBroadcastを開始でき記録できる、より生々しい、ダイナミックかつ即時性のある「放送」を指向しているようです。「どっちを選ぶか」ではなく、「放送内容・スタイルによって使い分ける」のが正解だと思うのですが、どうでしょうか。
サービスの特徴によって得手不得手はどうしてもあります。その上で「一部の視聴者層が気に入らないから」という理由で「Ustreamでは不得手」なインターネット・ストリーミングの世界をすべて否定してしまうというのはちょっともったいない話だなあと思いませんか?
最後に2つほど、TwitterのTLから、Ustとニコ生の性格の違いについて私の腑に落ちた発言を引用します。
八谷和彦氏(@hachiya)のツイートから:伊予柑さんと打ち上げで話したのだが、彼は昔演劇をやっていたそうで。だから出演者は名前があり、観客は匿名ってのが本人的に一番しっくりくるそうだ。なるほど。ustは議論のためのニコ動はエンタテイメントのプラットホーム、というのはすごく納得。
posted at 01:26:29
西村博之氏(@hiroyuki_ni)のツイートから:素人のライブストリーミング見るくらいなら、テレビのが面白いでしょ。。コメントでコミュニケーションがあるから楽しいのであって、コメント無しで、視聴者を楽しませられる素人なんて滅多にいないと思われ。
posted at 18:31:39
あ、あと、「オープンなライブストリーミングサービス」という面では最後発のTwitCastingがシステム設計上意外とおもしろいと思いました。Ust好きの方はぜひチェックをば。