5月31日、YOMIURI ONLINEの「トラブル解決Q&A」に「3Dパソコンの仕組みは?」という記事が掲載されました。これが、もう、なんというか目も当てられないくらいに間違いだらけ。さすがにここまで間違いだらけだとすぐに訂正が入るだろう(訂正されたらまぁいいだろう)と思っていたら、結局そのままのようなので…この場を借りてちょっとツッコミを入れておくことにします。
まずは元のQ&A全体を読んでみてください。
Q.3Dパソコンの仕組みは?
「3D対応パソコンの仕組みと、3Dで見られるコンテンツの種類を教えて下さい。」
A.3D映像の方式は2タイプあって、利用できるコンテンツが微妙に異なります。基本的には、内蔵の光学ドライブを使いBlu-ray3Dコンテンツを視聴したり、3D対応のデジカメで撮影した写真や動画などが立体映像で楽しめます。
「3Dテレビ元年」とも呼ばれる今年。3D映画「アバター」の大ヒットなどをあしがかりに、3D対応の映像機器が一気に登場してきました。中心は、3D対応の薄型テレビやBlu-rayレコーダーなどのAV機器ですが、ここにきてパソコンにも3D化の波が押し寄せてきました。
4月には、海外パソコンメーカーのASUSが、3D対応のノートパソコン「G51Jx 3D」を発売。5月27日には、NECが3D対応の液晶一体型パソコン「VALUSTAR N VN790/BS」を発表しました。このほか、富士通も3Dパソコンの試作機を同社のイベントに参考出品するなど、各社、3Dパソコンを急ピッチで開発しています。
では、パソコンが3D対応になると、どういったことができるようになるのか? 映像化を3D化する仕組みと、3D化して楽しめるコンテンツの両面から解説していきましょう。
サイド・バイ・サイド方式と偏光板方式
3Dパソコンうんぬん……という前に、まず知っておきたいことがあります。3D映像の方式です。実は、映像を3D化する技術には、いくつもの方式があります。一般的なものは、「サイド・バイ・サイト方式」と「偏光板方式」の2つです。
サイド・バイ・サイト方式は、左眼用の映像と右眼用の映像を交互に映し出す方法です。視聴には、アクティブシャッター式の3D眼鏡を使います。この3D眼鏡には、映像と連動するシャッターが組み込まれていて、右眼用の映像が表示されたときは、左眼のシャッターが下り、右眼用の映像だけが見えます。左眼用の映像が表示されたときは、その逆の状態。右、左、右、左……と、連続して映像を切り替えていくことで、映像に立体感が加わります。
一方、偏光板方式では、画面上の走査線を1ラインおきに左眼用の映像、右眼用の画像を再生。偏光レンズの入った専用眼鏡をかけると、左眼用の映像と右眼用の映像が分離され、映像が立体化されるという仕組みです。サイド・バイ・サイト方式は、今春に販売が始まったパナソニックの3Dテレビなどで採用。スカパー!HDなど、テレビ放送への採用も決まっています。偏光板方式は、3D映画の上映用に使われ始めている方式です(サイド・バイ・サイト方式を採用する映画館も一部あります)。
各方式には一長一短
各方式とも良い点、悪い点があります。サイド・バイ・サイド方式の良さは、3D映像を視聴できるポジジョンが広いこと。画面の真正面にいなくても、立体感が味わえます。リビングに家族全員で集まり、3D映画やテレビ番組を楽しむ……といった使い方に向いています。欠点は、アクティブシャッター式の3D眼鏡は重く、長い間かけづらいことです。またシャッターによって、強制的に光を遮断するために映像を暗く感じることがあります。
偏光板方式の良い点は、専用レンズが軽いことです。シャッター機構がいらないため、見た目も普通の眼鏡とほぼ同じです。長時間かけていても疲れません。価格も安く作れます。偏光板方式を採用する一部の映画館では、眼鏡にクリックオン(レンズの前に偏光レンズをはめる)タイプの3D眼鏡を配布しているところもあるほどです。もちろん、明るさも十分確保されます。欠点は、視聴ポジジョンが狭いこと。また、少し頭を動かしたくらいでも、左右の映像のバランスが崩れ、立体感に支障をきたす場合があります。
3Dパソコンの採用方式はまちまち
3D映像の仕組みと特徴を理解したうえで、本題である3Dパソコンに話を戻します。現状、3Dパソコンが採用する方式は、そのモデルによって違います。3Dパソコンの先駆け、ASUSの「G51Jx 3D」サイド・バイ・サイド方式。NECの「VALUSTAR N VN790/BS」は、偏光板方式を採用しています。
今後、どちらの方式が3Dパソコンの主流になっていくか、まだ分かりません。筆者自身は、アクティブシャッター式より、3D眼鏡を安く作れる偏光板方式が有利と見ています
しかし、この予想が覆される要因も残っています。コンテンツ側の3D対応です。偏光板方式を採用した3Dパソコンは、これから始まる3Dテレビ放送には未対応です。前述したように、3Dテレビはサイド・バイ・サイド方式を採用しているため、テレビ放送もこれに準じています。このため偏光板式を採用する3Dパソコンでは、現状のままだと3Dテレビ放送が始まっても、3Dテレビ番組を視聴できないのです。
その代わり3Dパソコンは、3Dテレビにはない強みがあります。単独でBlu-ray3Dコンテンツの視聴や、3Dカメラ(富士フイルム「FinePix REAL 3D W1」など)で撮影した3D動画や3D写真をパソコンの画面で楽しめることです(3Dテレビでは、3D対応のBlu-rayレコーダーなどが必要)。また、映像視聴ソフト「PowerDVD 10」を使って、2D映像を擬似的に3D化して楽しむことも、パソコンならでは。さらに動画共有サイトのYouTubeでも、偏光板方式を使った3D動画の配信が始まっています。
登場間もない3Dパソコン。未知の部分も多いですが、普及が進めばパソコンの新しい使い方や、楽しみ方が増えてきそうです。(テクニカルライター・原 如宏)
(※YOMIURI ONLINE トラブル解決Q&A
http://www.yomiuri.co.jp/net/qanda/20100528-OYT8T00904.htmより引用)
本来はきちんと間違っている部分を個別個別に引用して評していったほうがパッと見でも著作権法上の引用とわかりやすいしそうしたいところなのですが、この記事を評したい場合に何が困るってほぼ全部間違ってるところ。間違いを間違いと指摘するのに全部引用して読んでもらわないといけないんです…。
上記記事を読んでものすごく気持ち悪い感覚を感じたり、または即座にいろいろツッコミたくなった方、あなたは正しいです。しかし、3D技術についての知識を持っている人以外はその間違いに気付けないかもしれません。昔から存在し、10年単位でときどきプチブームがやってくるわりには3Dに関する話は知られていないので、それも無理はありません。
さてさて、それではこの記事の何が問題なのでしょうか。
最大の問題は、「サイド・バイ・サイドとは収録方式であって鑑賞方式の技術ではない」ほぼこの一言に尽きます。
3D映像というものは、右目用と左目用の2種類の映像を、右目・左目それぞれ別に見せることで立体感を感じさせるシステム全般のことを言います。(広義には違いますが、あんまり深くは突っ込まないでください(笑))
で、その際に
- どうやって「右目用」と「左目用」の2種類の映像を収録・伝送するか(収録方式)
- どうやって「右目用」と「左目用」の異なった映像を視聴者の右目と左目に届けるか(鑑賞方式)
たとえば、Blu-ray 3Dを3Dテレビで見る場合を考えてみます。
Blu-ray 3Dはディスクの中に右目用と左目用の2種類の画像をそれぞれフルサイズで持っており、HDMIケーブルを通して3Dテレビに「これが右目用の映像、これが左目用の映像」とそれぞれ送りつけてきます。収録方式のハードルは「Blu-ray 3Dという新しいフォーマット」「Blu-ray 3D対応BDプレイヤー」「3Dの伝送に対応したHDMI」でクリアです。
で、3Dテレビはその受け取った「右目用の映像」「左目用の映像」を視聴者の右目・左目に届けなければいけません。ここが鑑賞方式のハードルです。たとえばPanasonicの3D VIERAではここの技術に液晶シャッター式の3Dメガネを使っています。右目左目の画像を高速に切り替えて、視聴者の目元のシャッターも同期することで別の映像を見せるという方法ですね。鑑賞方式のハードルは「液晶シャッター方式」でクリアです。無事3D映像を視聴者に届けることができました。
では、今回のYOMIURI ONLINE記事で繰り返されている「サイド・バイ・サイド」とは何者でしょう。
「サイド・バイ・サイド」とは、テレビ放送やJPEG写真などもともと「1度に1枚の映像しか送ることを想定していない」システムで右目用左目用2枚の映像を送りつけるために、1枚ぶんの画像情報に2枚(右目用左目用)別々の画像を
こんなふうに横並びにして詰め込んでしまう方法のことを言います。技術っていうか…いや、ほんと、たったこれだけのことです。比喩でもなんでもなく上記のJPEG画像は「サイド・バイ・サイドの3D画像」そのもの。こういう映像のことを「サイド・バイ・サイド」と言います。3Dテレビはこういう映像を検出したら「あ、これはサイド・バイ・サイドの3Dだな」と判断して、左半分は左目用、右半分は右目用として横2倍に引き伸ばして液晶シャッターなりなんなりの技術を使って送り出す…というわけ。
もちろん見ての通り1枚あたりの横解像度が半分になってしまいますし、対応のテレビじゃないと故障してる?と誤解をまねく映像になってしまいます。だからサイド・バイ・サイド方式で行われている3D放送なんて衛星放送のごく一部のなかの一部、実験放送レベルのもの。地上波で行われる予定は全くありません。
…が、これもすぐ理解できると思いますが、既存の放送システムを全く変えずに放送できる(またはJPEGでもDVDでもなんでもいい、既存の映像システムを全く変えずに収録できる)ので収録方式としてはたいへん勝手のよいものでもあります。なのでよく出てくる単語でもあるわけです。
さて、ここまで理解していただいたところで、再度YOMIURI ONLINEの記事に戻ります。
3Dパソコンうんぬん……という前に、まず知っておきたいことがあります。3D映像の方式です。実は、映像を3D化する技術には、いくつもの方式があります。一般的なものは、「サイド・バイ・サイト方式」と「偏光板方式」の2つです。「サイド・バイ・サイド」と「サイド・バイ・サイト」がぐちゃぐちゃなのは目をつぶるとして(Side-by-sideなので「ド」が正解)、この著者は全体的に「液晶シャッター式(アクティブシャッター式)」という鑑賞方式の技術と「サイド・バイ・サイド」という収録方式とが全く区別できていないことが伺えます。偏光板方式、は偏光を使った左右画像の振り分け方法で鑑賞方式の話です。そう、ここは「一般的なものは『液晶シャッター方式』と『偏光方式』の2つ」でなければならないのです。
(※強調は引用者)
サイド・バイ・サイト方式は、左眼用の映像と右眼用の映像を交互に映し出す方法です。視聴には、アクティブシャッター式の3D眼鏡を使います。もう解説は不要でしょう。この後ずっとこの調子で「液晶シャッター式」のことを「サイド・バイ・サイド」と呼ぶものと思い込みながら解説が続きます。
サイド・バイ・サイト方式は、今春に販売が始まったパナソニックの3Dテレビなどで採用。スカパー!HDなど、テレビ放送への採用も決まっています。偏光板方式は、3D映画の上映用に使われ始めている方式です(サイド・バイ・サイト方式を採用する映画館も一部あります)。と、ただ用語の取り違えというだけなら大きな問題は無かった(問題は問題ですけど)のですが…。ここで、本来の意味のサイド・バイ・サイドと話がごちゃまぜになってくるから大変です。このblogをここまで読んでいただければわかりますよね。そう、スカパー!HDで行われる3D放送は本来の語句どおりのサイド・バイ・サイドなのです。なぜ3D放送のフォーマットとしてサイド・バイ・サイドが選ばれたかは前述のとおり、横に並べた絵をそのままテレビの画像として送出すればいいだけで、放送設備には全く手を加えなくていいから。「パナソニックの3Dテレビはサイド・バイ・サイド方式にも対応している」「スカパー!HDはサイド・バイ・サイド方式で3D放送の予定がある」ここまでは正しい字句通りで合っているのですが…ここで著者が「サイド・バイ・サイド=液晶シャッター式」と思い込んでいるためにカオスなことに。
(※強調は引用者)
前述したように、3Dテレビはサイド・バイ・サイド方式を採用しているため、テレビ放送もこれに準じています。このため偏光板式を採用する3Dパソコンでは、現状のままだと3Dテレビ放送が始まっても、3Dテレビ番組を視聴できないのです。
このように「サイド・バイ・サイド式放送は液晶シャッター採用テレビでないと視聴できない」と全く見当違いの誤った認識に繋がってしまいます。もう、大間違いもいいところ。サイド・バイ・サイドで受け取った画像を偏光メガネで視聴者に届ければいいだけじゃん!実際偏光式のZALMAN 3Dモニタを使っている私の環境でもソフトウェア次第でサイド・バイ・サイドの映像は3Dで視聴できますし、そもそもちょっと前にビックカメラが展示していたヒュンダイ製の3Dテレビはサイド・バイ・サイド放送にも対応した偏光式でした。
ほかにも突っ込みどころはたくさんあるのですが(いやほんとに挙げだすときりがないです)、ひとまずここまでわかった上で先のQ&Aを全文読み返すとともかく全部間違っているということがよくおわかりいただけるかと思います。
3D関連はたしかにずっと日陰者ではありましたが…。専門家として回答するならば、せめてもうちょっと勉強して欲しいなあ…。しかし、じゃああらためて間違いをきちんと指摘(説明)しよう、と思い立ってあらためてblogのエントリを書き始めると、これだけわかりやすい間違いでも意外ときちんと説明するのは大変だなと感じたのも事実。もうちょっと3D技術が「ふつう」にならないとしかたないのかなあ。
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