N-08Bの本体が入っていたのは定番のDoCoMo箱。こういったところにも「これはあくまでも普通の“ケータイ”なんですよ」という主張を感じる、というと言い過ぎでしょうか。
N-08Bは、その本体を見てもそれが“ケータイ”であるとは思えません。まるで小型のノートパソコン。実際、N-08Bのサイズは80×180×18.1mm、超コンパクトで知られるWindowsパソコン「工人舎PM1」94.2×158×13.5~22mmとほとんどサイズは変わらないのです(とはいえ、後述するキーボードの変則配置とひきかえに得られた15mmほどの幅の差はかなり携帯性に効いており持ち歩きやすさは大きさのわりにかなり良好です)。しかしN-08Bの中身は「良くも悪くも」見た目と裏腹に“普通のケータイ”であるわけで、その特徴をどう捉えるか、がこの機種の評価のポイントになります。
普通の携帯電話なので、起動後待ち受け画面にはiコンシェルの「ひつじのしつじくん」が歩きまわっていますし、ほかにもiモード、iアプリ、2in1、ワンセグなどといった日本ならではの「携帯電話」で培われたあらゆる先進サービスがすべてそのまま使えます(ただしおサイフケータイには非対応)。ベースとなっているプラットフォームは「N」携帯のものそのままなので、待ち受け画面での数字長押しによる機能ショートカットなどすべて「N」携帯のものを受け継いでいます。ドコモの「N」に慣れ親しんでいる友人いわく「筐体の見た目が全然違うのに操作が全く同じなので逆に違和感がある(笑)」とのこと。それくらい、中身は普通の携帯電話なのです。
見てのとおり“携帯電話”といえど通話をするような形ではありません。通話はハンズフリー(スピーカーホン)か、イヤホンマイク、ないしBluetoothヘッドセットを使うことになります。以前紹介したBluetoothハンドセットを使うという手もあるでしょう。WILLCOM D4 Bluetoothハンドセットも使えるそうです。
しかし、同様に公式にはハンズフリーかイヤホンマイク、Bluetoothヘッドセットのみしか通話手段がないとされるau IS01では「ハンズフリーの音量を最低近くに下げることで本体を閉じハンドセットのように使う裏技がある」のですが、N-08Bでは通話しながら本体を閉じることができないためこのような小技は使えません。あくまでも、通話はハンズフリーか、イヤホンマイクか、Bluetoothヘッドセット必須となります。慣れればハンズフリー通話も悪くない…というよりむしろ便利なのですが、会話内容が周囲に漏れてしまうのは痛いところです。通話も考えているのであればイヤホンマイクかヘッドセットは同時携帯する必要があります。“ケータイ”でありながらおサイフケータイの機能には非対応であったり、搭載カメラが33万画素のインカメラのみであったりと、N-08BはIS01よりもさらに鮮明に「2台目」を狙った構成であるだけに通話は考えない…というのが開発側の趣旨かもしれません。しかしいわゆるガラケーのプラットフォームの上で動いているシステムであるがゆえに、1台目としても狙える高機能さと安定感があるのが個人的には実にもどかしい思いがあります。だったら1台目の携帯としても使える潜在力を残して欲しかった、と。
本機の最大の特徴であるキーボードは、さすがにこのサイズを確保しているだけに非常にタイプしやすいと感じます。ただしすぐにフルスピードでタイピングできるかというとそうではなく、キーボード右端近辺のキー配置・キーピッチは若干変則的ですので、このあたりはしばらく慣熟が必要です。
特にキー配置については長音キーの位置がかなり変わっていますが、これは筐体を「細身」にして携帯性を上げるためにどうしてもこうなってしまったとのこと。犠牲にしたものも確かにありますが、それで得た「携帯性」というメリットは実機を握ってみると非常に強く実感可能なので致し方ないという感じでしょうか。
ただ、以前IS01のレビューでも触れましたが、キーボードの感想はまさしく千差万別、人によって印象がかなり異なりますので必ず実機に触れてから判断することをおすすめします。
本体に標準で搭載されているテキストエディタは、率直に言って使いやすいとは言いがたいものがあります。画面内におさまらない行があると横スクロールする上に折り返し位置が指定できず、画面内に一文を収める表示ができません。文字数制限なども痛いですが、簡単な「テキスト」をタイプするにはアリでも「原稿」を書くことは難しいという印象。しかしN-08Bはiアプリが使えるのでiアプリによるテキストエディタを使うという手もあります。また日本語入力には“ケータイ”ならではとも言える強力な予測変換機能もついていますが、個人的にはキーボードが本当に快適なこともあり予測変換を切ったほうがスムースに入力可能でした。
一方、iアプリTwitterクライアント「jigtwi」との相性は抜群です。ブロガーフォーラム開催時は横画面に対応しておらず悲しい思いをしましたが、早速横画面にも対応し、同時にキーボードにもきちんと対応しN-08Bで大変使いやすくなりました。キーボードショートカットにより各タブを移動できたりなどは下手なAndroid/iPhoneのTwitterクライアントよりも快適かもしれません。jigtwiはTwitterに貼られたURLを内蔵のjigブラウザで表示することが可能だったりと、N-08Bをまさに最強のTwitterクライアントへと変えてくれます。惜しむらくは搭載カメラの画質がいまいちなところですが…。インカメラを使った写真撮影・Twitter投稿の流れが快適であるがゆえにあと一歩感がハンパありません。
というわけで、なかなか玉虫色となるファーストレビューとなりましたが、その「玉虫色」は今の日本の携帯電話の世界そのままです。N-08Bという“ケータイ”は、
アプリの自由度・将来性はスマートフォン優位だが、蓄積されたさまざまな高度なサービス・端末の安定度では現状のスマートフォンは従来型の“ケータイ”にまだまだ遠く及ばないという現状を写す鏡と言えます。ようやくauのAndroid機でキャリアメール(EZメール)が使えるようになったり、DoCoMoではspモードが始まったりしましたが、それでも「今までの携帯電話で普通にできていたけれども、スマートフォンでは出来ない」ことは山のようにあります。
iPhoneをはじめとしたスマートフォンの世界に浸っていると気づきにくいことではありますが、モバイルにはモバイルの「使い勝手」というものがあり、iモードから始まった日本のモバイル・インターネットは「ガラパゴス」と揶揄されはしつつも非常に高度に発達した体系であることも事実なのです。
いま「スマートフォン」を選ぶと、その「高度に発達したモバイル・インターネット」の中の一部を確実に捨てることになります。その世界を「捨て」ずに、「携帯電話」から一歩踏み込んだテキスト・メッセージングの快適さを突き詰めたのがN-08B、というわけです。
従来型のモバイル・インターネット(iモード)の世界をどう評価するか、フルキーボードによるテキストハンドリングをどう評価するか。捨てるもの、得られるもの。N-08Bにおけるそのバランスは実に絶妙だと私は思いますが、「従来のモバイル・インターネットの凄さ」(=N-08Bという端末があえて選んだメリット)は、普通の携帯電話ではあたりまえに使えている、空気のようなものであるがゆえに一度捨てて苦渋を味わっていないとなかなか見えてこないメリットであるとも思います。N-08Bはそういう意味で実に玄人向きの、評価が難しい“ケータイ”でしょう。