2010/09/07 ■ テレビ体験を激的に変えるテレビサイド端末「ANOBAR」 Xでつぶやくこのエントリーをブックマークに追加このエントリーを含むはてなブックマーク

ANOBARという製品をご存知でしょうか。製品と言っても、一切市販はされておらず「お金を出せば買える」ものではありません。メーカー(ANODOS)の“酔狂”で、2008年頃からごく限られた数量が作られ、限られた人たちの間でモニターされていた製品。その存在は過去何度か記事になったりもしたのですが、ともかく入手の手段が限られていたことと、そして非常に特殊な製品であったこともあり大きな話題とはなっていませんでした。
…が、前から私コレ本当に欲しかったんですよ!もうすごい自分好みのガジェットで!

しかし一般人がANOBARを入手するには、まれに行われるモニター公募で当選するしかありません。以前は「2ちゃんねるの実況板でアクティブに活動している人を募集」など普通の勤め人にはハードルの高い条件ばかりで絶望していたのですが、今回「普通の」人も応募できるモニター募集が!光の速度でドキドキしながら応募したら当選!やった!やった!ねんがんのANOBARをてにいれたぞ!

過去ANOBARに関して報道された記事を読む限りでは、この製品、

  • 自分の創りたいものをともかく作ってみた
  • なので採算とかコストとか全く考えずに設計したため、部品代だけで1台あたり19万円くらいかかっている
  • そういう(商品としては成り立たない)設計のため、“商品として”責任が持てないから売るつもりは全くない
  • 採算度外視で3年くらいは自分の好きにやる
といういきさつで誕生したもののようです。だから…だと思うのですが、何から何までともかく隅々までこだわりまくって作られていてびっくりしました。届いた箱がやたら凝っていてカッコよく豪華なのも凄いのですが、それ以前に「モニタに応募するための書類を送る封筒」からしてエンボスでロゴが入ったやたら凝った封筒だったりしましたから…。いや、なにもそこまで凝らなくても…!




というわけで包装はもう凝りに凝っており、専用の化粧箱の中に専用の布袋にくるまれたANOBAR本体が入っています。Apple製品の包装が「開梱する時からのユーザ体験」を考慮しているという話は有名ですが、ANOBARの包装の凝り方はそれに匹敵…いや、コストはもっとかかっているかも。



ようやく本体と付属品へ辿りつきました。取り扱い説明書は非常に簡単なもので、実際はWeb経由でドキュメントを読むことになります。そしてリモコンはシンプルですが学習リモコンになっており、チャンネル選択や電源・音量といった操作を手元のテレビに対しても行えます。つまり、ライブのテレビを見るだけであればテレビのリモコンはもはや不要で、ANOBARのリモコンがひとつあれば良いわけです。

…と、ここまで書いて、そもそもANOBARという製品は一体何なのかを説明していないことに気が付きました。なぜANOBARのリモコンに「テレビのリモコン」の機能が含まれているのでしょう。


ANOBARの一番象徴的な機能は「2ちゃんねるテレビ実況板の書き込みをリアルタイムに表示する電光掲示板」です。もちろん出来ることはそれだけではありませんし(かなり高機能です)テレビの傍に置かなければならないというわけでもないのですが、基本的な使い方はテレビの上なり下なりに置いて、テレビを見ながら実況板の書き込みを流して見る…という、ニコニコ実況的なことができる専用端末なのです。

ちょうど先日ニコニコ実況のコメントをテレビ画面に重ね合わせる専用端末「デジタルテロッパ」が発表されましたが、ANOBARは既存のテレビではなく別の画面で実況を表示します。そのため、実際に使ってみるとあまり生活やテレビ視聴に「割り込まれる」ような印象はなく、さりげなく情報を提示されているような感覚があります。

どうやらANOBARはこの「日常生活の中でさりげなく情報を提示する画面」という指向を追求しているようで、まずANOBARには電源を切るという概念がありません。リモコンに電源ボタンはあるのですが、それはあくまでもテレビをON/OFFするためのボタンであって、電源ボタンを押してもANOBAR自身には何もおこりません。そのかわりANOBARには人感センサーがついており、端末の前に人がいない時には画面が消灯したりスクリーンセーバーになったりします。

なので日常生活の中で「人が見ている」ANOBARは常に何かを表示しているのですが、これが実際に家庭に設置されると実に面白いのです。

恐らく以前はこういう「家の中で常に何か情報をアウトプットしつづけている」機器といえばテレビだったと思うのですが、ANOBARがあると「テレビをつけっ放しにしておく」ことの暴力性…とまでは言い過ぎにしても、日常への介入度の高さをあらためて感じます。特に最近は何か“芸人”が“面白いこと”をするたびに画面へ注意を惹きつけるよう無駄な効果音が挿入されたりするので、意外と注意力を持っていかれてしまうのです。
その点、ANOBARはただ静かに、ひっそりと“実況”やニュースなどを流し続けます。ふと視線をやるだけで「実況」の雰囲気は充分に楽しめますし、そこで盛り上がっていることに気がつき興味をひけばそこからテレビの電源を入れることもあります。
また、「実況」だけ見てテレビを見ないで終えてしまうこともよくあります。テレビ画面を見ながらみんなが適当なことをしゃべっている…、その話だけぼんやりと聞いていて、なにやら自分も楽しい気分になる…。そんな感じです。

同期コミュニケーションの力だとかさまざまな理屈をこねまわすこともできるのですが、シンプルにANOBARは優れたデザインの、非常に優れた端末だと思います。惜しむらくはこれが「普通に買えない」ことなのですが、ANOBARオフィシャルサイトによると新バージョン「ANOBAR 8」が2010年秋に発表予定とのことなので、いよいよプロダクトとして出てくるのではないかと期待することにします。
この端末にいくら出せる…?と問われると非常に答えが難しいのですが(個人的には非常に価値を認めているのですが、その良さ、生活への浸潤度が実に漠然としていて定量化しにくい)、今までにない概念の、今までにない情報端末であることには違いありません。