世界初のCG映画「トロン」(1982)の続編にあたる「トロン・レガシー」がついに今年の年末に公開されると聞いて、おもわず当時の「トロン」を見直したくなりました。
で、なんとなくその流れで個人的に当時の「ハッカー」登場映画祭というか、そんなような映画を片端から見てしまいました。どれもこれも何度も見たものばかりなのですが、これがあらためて今見直すとけっこうたのしい!
…というわけで、ここ最近観なおした当時の「ハッカー」映画たちを紹介したいと思います。
トロン(1982)
世界初のCG映画。とはいえフルCGというわけではなく、CG風のセットを使った撮影もかなり含まれていますが。コンピュータの中に入り込んでしまった主人公と、プログラム「トロン」がセキュリティを回避しつつ「マスター・コントロール・プログラム(MCP)」を倒すという筋書き。バッファオーバーフローなどを駆使して特権を獲得していろいろやらかす現代のハッキング手法をなんとなく連想しながら見るとけっこうこれが面白い。競技場の中では90度単位でしか曲がれない「ライト・サイクル」が、競技場の壁に開いた穴から外に出ると一気に自由に操縦できるようになるシーンは、そういう「統制された管理エリアを抜け出すとプログラムも自由に振る舞える」というメタファだと当時聞いた記憶があります。脚本のボニー・マクバードはあの(「ダイナブック」の)アラン・ケイの奥さんだということは実は最近知りました。なるほどそういう象徴がいちいちよく出来ているわけです。
ウォー・ゲーム(1983)
正面から「ハッカー」(クラッカー)を描いた初めての映画だと思います。音響カプラ(電話機を載せて通信するモデムの始祖のようなもの)を使ってパソコンを電話で接続し、学校の成績を書き換えたり国防総省のコンピュータに侵入したり…という筋書きは当時強烈な印象を残しました。ある意味私の原体験と言っていい映画。私がパソコン通信を始めたのは1985年頃だったと思いますが(300bpsのモデムがなんとか買えるようになった頃)、この映画のことを考えなかったと言ったら嘘になります。というかモデムのほうが安かったし安定していたのに、このシーンへのあこがれから本当は音響カプラが欲しかった!今見るとさすがに粗は感じますが、当時話題になっただけはある楽しめる映画です。
機動警察パトレイバー the Movie(1989)
工事用ロボット(レイバー)のOS深層部にトロイの木馬型コンピュータウイルスを仕掛けられ、そのウイルスが蔓延・発動して…という筋書き。今そのストーリーを聞いても「ふうん」という感じだと思いますが、これが1989年の映画だということが本当に驚きです。1989年というと、X68000やFM-TOWNSが最新鋭の頃。Windowsで言うとWindows 95の6年前、Windows 3.1どころかWindows 2の時代です。コンピュータウイルスという概念はもちろん当時にもありましたが、今のように一般的なものでは全くありませんでした。そして普通にエンタテインメントとして盛り上がる演出。当時何度も映画館に足を運びましたが、これはいま見ても本当に面白い。スニーカーズ(1992)
映画に登場する「ハッカー」は荒唐無稽な「ハッキング」をすることが多い中で、珍しくソーシャルエンジニアリングが描かれている映画。もちろん映画的な小道具やありえない技術もたくさん出てきますけどね。この映画の個人的な一番の見所は、当時のスーパーコンピュータの象徴だった「CRAY-1」が登場するところ(椅子として!(笑))。スーパーコンピュータ「クレイ」といえば、そりゃあもう「なんかわからんけどちょうすごいコンピュータ」として脳裏にインプットされているモノなわけで、その姿がちらりと出てきただけでも大興奮ですよ!やれ冷却のために内部を液体で満たした水冷システムだの、高速化するため配線長を短くするために円形になっているだのワクワクするようなエピソード満載の「スーパーな」コンピュータでした。とまあ古いハッカー映画を並べてみましたが、いま見なおすとこれがまたなかなか新鮮です。特に「トロン」は、いろいろな「コンピュータの中」の比喩表現が本当によく考えられているなあと今さらながら感心します。(当時はまだガキンチョでそこまでわかっていませんでしたが)
そしてこの当時の「ちょうすごいコンピュータ」スーパーコンピュータCRAY-1で演算速度が250MFLOPS、その後継機である世界最速スパコンの代名詞だったCRAY-2で演算速度3.9GFLOPS。これ、今の時代で言うとどのあたりの能力にあたるかというと…PSP(PS3じゃないよ!PSPだよ!)のメインCPUがピークパワー2.6GFLOPSと聞きますので、CRAY-2は(非常に乱暴ですが)PSPの1.5倍速くらい。
そう考えると本当に本当に時代は進歩したわけです。そして、それだけのコンピュータパワーの差がある中で、CG映画を作り上げた「トロン」はすごいよなあ、とも思うわけですね。
コンピュータの世界は進化の速度がとてつもないですが、そういう世界だからこそ、ちょっとノスタルジーを感じるこういう映画をいま振り返ってみるのもよし、そして最後に「サマーウォーズ(2009)」なんぞを見て「コンピュータの世界」の表現の変遷に思いを馳せてみたりなんかするのもいいんじゃないでしょうか。