2017/01/29 ■ 20万円の精密機械をぶん投げろ!超絶360度カメラ「Panono」レビュー Xでつぶやくこのエントリーをブックマークに追加このエントリーを含むはてなブックマーク

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RICOH THETAを皮切りに、さまざまな製品が出そろってきた「360度カメラ」。ワンショットで空間ぜんぶを切り取るという体験は、実際に使い始めてみるとほんとうにこれがおもしろい

一度のシャッターで上下左右、すべての方向の写真を記録する。THETA以前は手作りのカメラや特殊な撮影方法で実現するしかなかったのですが、最近はかなり製品が増えてきました。このblogでも以前「bublcam」をレビューしたことがあるほか、360camなどいくつか製品を買っては試しています。ニコンKeyMission 360、SamsungもGear 360、LGはLG 360 CAM、完成度の高いInsta360などなど、いまは360度カメラ百花繚乱といったところです。

そんな360度カメラが盛り上がる前。2011年のことですが、「投げて撮るカメラ」というものが話題を集めたことがありましたボール状の筐体に36個のカメラモジュールを搭載し、それを真上に放り投げると、内蔵された加速度センサーにより放物線の「頂点」で自動的に全周囲の写真を撮影する。そんな素敵なアイデアのカメラです。

その2年後、2013年。この「投げて撮るカメラ(Throwable Panoramic Ball Camera)」は、いよいよ「Panono」として製品化が発表されクラウドファンディング”Indiegogo”で出資を集めることになります。

この「Panono」の出資募集、2014年9月に完成予定、とされていましたが…そこに出資していた私のもとへ、2016年12月、ようやく、製品としてのPanonoが送られてきたのでした。いやあ、長い2014年でした…。

結論

このあとかなりレビューが長いので先に簡単に結論をまとめておきますが

・「単体360度カメラ」としての画質(解像度)は現時点で唯一無二。この解像度の全天球写真をこの手軽さで撮れるのはスゴい
・しかし暗所は苦手…というより実質昼間屋外専用カメラ、特徴の「放り投げて撮る」スタイルも使いどころを非常に選ぶ、色味が妙なことがある、などなかなかのじゃじゃ馬。全シチュエーションで活躍できるかというとそうではない。

・膨大なカメラのスティッチングはクラウド側の処理で行う。またバッテリーの持ちもいまひとつなので大量の写真を撮って大量に処理してというのはちょっと向かないが、ここぞというところで使うのならスマホアプリや変換サービスの使い勝手自体は悪くない
・というかほんとじゃじゃ馬だけどビシッと決まったときの画質はほんとすごい。あと使いどころ超選ぶし投擲スキルが要求されるが投げて撮るの自体はかなり楽しい

 

「この、屋外晴天とかでハマるとすげえ画質だけど暗所は苦手でぶれまくるし失敗することもあるしのじゃじゃ馬カメラ」感、なんかすっごい既視感あるなあと思ったらこれまんまSIGMAだFoveonだ…!という感じです。

THETA Sとの画質比較

まずは画質を見ていただきましょう。そのほうが話が早い。Panonoで撮影したもの↓

同じ場所からTHETA Sで撮ったものはこちら↓

Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA

 

同じ部分を拡大して比較してみると…

Panono↓
panono
panono

THETA S↓
theta
theta

いやあ、Panonoいいですねえ…!

 

Unboxing

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もともとIndiegogoのキャンペーンではここまでついてくる約束ではなかったような気もしますが、送られてきた荷物にはPanonoカメラ本体、専用キャリングケース、手持ち用のシャッターボタンつきアーム(Panono Stick)、そして三脚用のアダプタ(Panono Adapter)が付属していました。こんなにつけてもらっていいんだろうか…

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Panono本体の箱には、本体、マニュアル、microUSBケーブルが入っています。マニュアルには各国語の記載があり、日本語も(!)用意されています。

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充電などは本体底面のmicroUSBポートで行います。本体に標準では三脚穴はなく、「放り投げる」以外の撮影方法をするためには(=カメラをなんらか固定するためには)このUSBポート周辺の窪みをつかって固定するアダプタ(Panono StickまたはPanono Adapter)が必要になります。

このあたりのアダプタは3Dプリンタでいろいろ作れるようにしておきたい。

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専用キャリングケース。完全に専用品としてつくられていて、超ぴったりでまるっこい形がなかなかかわいいです。

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手持ち撮影用アームPanono Stick。手元に撮影用シャッターボタンがあり、固定用コネクタ部分にmicroUSB端子が生えているのでこのまま棒を差し込んで固定すると遠隔ボタンが使えるようになるスグレモノです。

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先述の通りPanono本体には三脚穴に相当するものはないため、一脚・三脚に固定して撮影する場合は別にアダプタが必要です。このアダプタが、microUSB端子周辺のくぼみ<>三脚穴の仲立ちをしてくれるわけですね。

 

Panonoでの撮影

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Panonoでの撮影方法は3通りあります。

1. Panonoの電源を入れ、起動したらPanono自体を上に放り投げる


Panonoの出自である「Throwable Panoramic Ball Camera」の撮りかたです。内蔵された加速度センサーにより、Panono自体が放物線の頂点に達した時点(=静止した時点)で自動的に周囲360度の全周撮影を行います。

この撮影方法、ほんとおもしろいのですが…少し考えればわかるのですが、

放物線の頂点だとたしかに上下方向についてはPanonoは静止しているが、本体の回転(角速度)はかわらず動いている

のですね。いいかえれば、カメラはぐるんぐるん回っているのでその動きがそのまんま写真のぶれとして作用するのです。あちゃー。

そのため、Panonoを放り投げて撮影するためには、なるべく本体を回転させないよう気をつけながら真上に投げ上げる必要があります。これが、やってみるとかなり難しい。Panonoのセンサーでは本体の回転も検出しており、この「放り投げる撮影」でカメラが回っているとエラーとなって撮影できません。(この検出の精度は変えられるようになっていますが、いちばん緩い設定でもなかなかうまく撮影するのが難しいのです)

つまり…、
・晴天屋外などでシャッタースピードがかなり速くできる場合ならともかく、少しでもシャッター速度が下がる屋内などではこの撮影方法を使うとぶれぶれの写真になる
・回転を抑えて投げ上げる必要があり、一定以上の回転がかかっているとエラーとなる。つまり、正しく投げて正しく撮影するのに訓練が要る。言い換えると、投げたからといって撮影できるとは限らない(=シャッタータイミングを選べない、撮影に時間がかかることがある)
・というかそもそも定価20万円以上の精密機械を放り投げるわけで、受け取り損ねたときの事態を考えると超どきどきする(下を見るとどきどきはらはらしている顔が丸うつりになる(笑))

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非常に使いどころが難しい。いや、面白いんですけどね。

 

2. Panono Stickを装着しボタンでシャッターを切る

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というわけで、代替策というか自撮り棒「Panono Stick」というものもあります。これは、棒にシャッターボタンとmicroUSB端子がついており、Panonoの穴に差し込むとUSB接続でシャッターボタンがつながる仕掛けになっています。そう、無線や放物線に頼らずシャッターが押せる。これは便利。
実際使うとこれが非常に使い勝手がよく、一番使う撮影方法はこれになると思います。ただ、惜しいのは「このPanono Stickがたいへん持ち運びにくい」ところ。折りたたみや伸縮のできないただの棒のため、非常に取り回しが悪いのです。

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いまは100円均一で売っていたペットボトルホルダー(500mlペットボトルをぶらさげておくためのホルダー)でぶら下げています。

 

3. Panono Adapterを装着し、三脚などでPanonoを固定、スマートフォンアプリで撮影する

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Panono自体には三脚穴はありません。かわりに、小型のPanono Adapterというアダプタを装着するとそのアダプタに三脚穴がついています。このPanono AdapterにはStickにあるような遠隔シャッターボタンに相当する配線はないので、Adapterで固定して撮影する場合はWiFi接続で遠隔シャッターする必要があります。

 

撮影後の処理

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Panonoは36個のカメラで360度の写真を撮るため、複数のカメラの撮像をスティッチ(つなぎ合わせ)する処理が必要になります。この処理は、たとえばTHETAでは(写真は)カメラ単体で行われますが、Panonoではクラウド側で行われます。

Panonoで撮影した写真を、WiFi経由でスマホ側にダウンロードすると、アプリでは「仮の」360度写真を確認できます(なんとなく合わせた、という程度なのでこの段階ではきれいにはつながっていません)、それをアプリからPanonoサービスにアップロードすると10分ほどでスティッチが行われ、写真の参照ができるようになります。

「写真のスティッチをクラウドサービス側で行う」という意味ではbublcamもそうでしたが、Panonoでは「36カメラをスマホで繋ぐのはさすがに大変だろう」というのもあるし、クラウドへの送信がバッチ設定できる(まとめて送信設定しておくと勝手にやっておいてくれる)ので、bublcamのときほど抵抗感はありません。(大量の写真の処理はたいへんですが)

スティッチの精度は結構高く、36カメラもあるわりにはつなぎ目はほとんどわかりません。ただ、たまにミスをすることがありそういう場合は…
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ホラーな写真ができあがります。こういう時に手動で修正する手段が(いまのところ)ないのはつらいところ。

写真の水平を調整することはWebからできるようになっています。

クラウド側でステッチされた写真は、最大16k×8kのEquirectangularなJPEGとしてダウンロードすることができます。

 

 

クラウドファンディングでのPanono

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蛇足になりますが、「クラウドファンディング(Indiegogo)でのPanono」についてすこし補足しておきます。このプロジェクトは2608名もの出資者を集め、出資自体は成功に終わります。$499(約5万円)出資でPanono 1台を受け取るという約束で、これは製品化時点での予定価格$599よりも$100割引、との触れ込みでした。

このときから「構造はとても複雑そうだし36個のカメラモジュールを搭載して制御して、で、この価格で作れんのかな?」とは思っていたのですが、案の定開発は難航。当初予定の2014年9月どころか、2015年を過ぎてもなかなか製品として出てきませんでした。

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結局、製品として仕上がってきたのは2016年春先のこと。販売価格は当初予定の3倍近くになり、20万円を超えるものになりました。開発・製造にやはりコストが相当かかったものと思われ、財務状態からもIndiegogoの出資者全員に製品を即時発送する、というわけにはいかず、「現状の価格で販売を開始し、売上げを確保しながら、そして追加の出資者を探しながら少しずつIndiegogo出資者に発送する」という選択をすることになります。

Indiegogo出資者は2000名を越えるが、この方法で発送できるのは週にわずかな台数のみ。正直「そうはいってもまあ届かんだろうな」とあきらめていた、のが実際のところです。

ところが、私自身出資がけっこう早かった(Order IDが150番台)のもあり、8月ころに住所確認メールがやってきました。

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このとき「あ、嘘じゃなく送ってるんだ」と思ったのですが、そのまま数ヶ月なしのつぶて。「まあそうですよねー」くらいに思っていました。が、これが自分の間違いだった

住所確認のメールに書かれた住所が合ってたのでそのまま放置していたのですが、よく読むとこのメールには「Can we ship to this address?」とあり、確認の返答を求めていた、んですね。あれ?と思って「この住所でいいからはよ送れ」と12月に返信したところ、すぐにトラッキング番号を送ってきて、到着した、という次第。

もし、Indiegogoのbackerで上記メールを受け取っているひとは、無視しないでちゃんと返信しましょう!

というわけで、「製造コストの見積もりが甘く出資者に大不義理をやらかしている」状態のPanonoですが(実際フォーラムなどすげー荒れてる)、製品自体はちゃんと作っているし少しずつではあるもののちゃんと送っている、でも応答しないとそれっきりだよ、という状況のようでした。

レビューしたとおりPanonoというカメラ、製品自体はなかなかおもしろいので持続してほしいと思っています。あんまり売れてる気配もない(話題になってない)んですが、続いてほしいなあ。

 

作例

屋内はホワイトバランスやシャッター速度がかなり厳しい

が、屋内でも三脚などでしっかり固定し被写体に動くものがなければ、マニュアル撮影でしっかりした写真を撮ることもできます。