2015/08/14 ■ ついに来た!動画も撮れる360度全天球カメラ「bublcam」レビュー Twitterでつぶやくこのエントリーをブックマークに追加このエントリーを含むはてなブックマーク

2013年に発売されたRICOH THETAに前後して、kickstarterなどでいくつか発表された各社各様の全天球カメラ。
試作品は出来ているっぽいのに、当初の発売予定を過ぎてもなかなか市販される気配がなくやきもきしていた人も多いでしょう。(360cam,sphericam,sphericam 2,panonoなど…)
そんな「kickstarter・indiegogo組全天球カメラ」たちのなかで、ついに!ついに!ついに!!!完成して発送されるカメラが!!登場しました。その名も「bublcam」!

このbublcam、もちろん私もkickstarterのEARLY BIRDで申し込んでいたので、第一便でやってまいりました。しばらく使い込んでみましたので簡単にレビューしたいと思います。


bublcamはkickstarter当時で$399CADから、約4万円で出資を受け付けていました。まあこのころ(2013年11月)言っていたのが「Estimated delivery: May 2014」。2014年5月には完成して発送する予定…だったのが届いたのは2015年8月、安定のkickstart時間っぷりではあります。
いまは$799USDでオーダーを受け付けているようです。結構いいお値段になっちゃいました…

外箱はこのようなかんじ。おしゃれですが、ちょっと存在感ある大きさです。

箱を開けるとこんな感じ。本体の大きさはけっこうコンパクトです。

箱の中の本体が収められていたスポンジを取り外すと、そのほかの付属品が見えます。

付属していたものは小型三脚、バッテリー、携帯ポーチ、ACアダプタ、USBケーブル、レンズ清掃キット、microSDカード。
記録用microSDカードはドキュメントによるとClass 10 UHS-1クラスのものが必要とのこと。FAQによると別に買えとあるのですが最初から要件に合う16GBのSDカードが付属していたのは非常にありがたいですね。
あと先のFAQによると32GB以上のメモリカードは使えないというのにも注意が要りそうです。

中央に見えるbublロゴはLEDの色によりステータスを表し、またボタンにもなっていて電源のON/OFF、モード切替、シャッターボタンとして機能します。

bublcamは広角のカメラ4眼で360度全天球を撮影する仕組みです。球状の本体の周囲4箇所にわりとしっかりとしたレンズが見えます。

下部には三脚穴があります。先に述べたようにコンパクトなポータブル三脚もセットの中に付属しており、カメラとして「三脚の使用」が前提となっています。

ではbublcamの実際の使用感はどうか。

THETAと比べてみると一目瞭然でわかりますが、THETAは本体の形状からも「手で持って全天球写真を撮影する」ことが可能なデザインになっており、また、全体のユーザ体験も非常に「カジュアルな」全天球撮影を追い求める設計になっています。
いっぽう、bublcamはそもそも手持ち撮影しようにも手で(レンズを隠さず)ちゃんと持つことが難しいです。多眼のレンズが球の周囲にまんべんなく存在し、それ以外に特にとっかかりのない球状なため「手で持つ場所」がそもそも存在しないのです。

なので、箱の中に最初から三脚が同梱されています。手で持つ場合は(本体に三脚を装着した上で)三脚を持つ、というスタイルになります。
ユーザインタフェースの設計もそうなっているため、根本の思想として性格が違うということかと思います。
  • THETA=シャッターボタンを押すとその瞬間に撮影する=手持ちで撮影すること前提の設計
  • bublcam=シャッターボタンを押すとセルフタイマーになり数秒後に撮影される=カメラを「置いて」撮影することが前提の設計
電源を入れてから撮影可能になるまでの時間(起動時間)もbublcamは30秒ほどかかります。必ずセルフタイマーになる、三脚が必要、起動に時間がかかる、といったことも含め「さっと取り出して、電源を入れて、撮影する」ような使い方はそもそもほとんど想定されていないと思われます。あわせてTHETAにある自動水平補正の機能は(現在は)bublcamにはないので、カメラ自体の水平もきちんととってあげる必要があります。

撮影後は、スマートフォンのアプリと専用のWebサービスで閉じて使用しているぶんにはbublcamとTHETAはほぼ使い勝手はかわりません。撮影された写真や動画をカメラからスマートフォンに転送し、閲覧し、アップロードすることができます。WiFiを使った写真の転送はかなり速いのと、写真の転送をバッチ設定できるので転送・閲覧はなかなか快適です。

しかし、スマートフォンのアプリ(と専用Webサービス)の外で全天球写真を扱おうと思うと、bublcamは少しハードルが上がります。
  • THETA=撮影後カメラ内でステッチ(つなぎ合わせ)が行われ、全天球の画像がそのまま各種ビューアで使える一般的な形式(Equirectangular)として保存される
  • bublcam=撮影後保存されるのは各レンズから撮られた(上のような)「生」の画像。Equirectangularの画像は専用のWebサービスにアップロードしたあと変換されたものを入手する(※PC用の閲覧・変換アプリはありません。必ずWebサービスを経由する必要があります)
THETAとbublcamのこういった設計の違いは、つまり、THETAがカジュアルな(スナップ的な)全天球写真をサクサク(手持ちで)撮っていく方向を志向しているのに対し、bublcamは「しっかりセッティングし、しっかり撮影し、選んだ厳選した写真を利用する」全天球写真のためのカメラ、と言うことができます。

さて、シャッターボタンのUIの話が出てきたのでついでに操作方法がどうなっているか、について。
bublボタンは先述の通り色によりカメラの状況がわかるようになっており、また、電源ON/OFF、動画/静止画モード切替、シャッターボタンを次のように兼用しています。
  • 電源OFF時長押し=カメラ起動
  • 電源ON時長押し=モード切替(静止画←→動画)
  • 電源ON時超長押し=電源断
  • 短押し=撮影(静止画時セルフタイマー開始、動画時撮影開始・終了)
LEDの色についてはひとまず「緑=静止画モード、白=ビデオモード」を覚えておけばだいたい用が足ります。

細かい設定やプレビューはWiFi経由でiOSまたはAndroidアプリから行います。動画の画質モード(1440x1440 30fps, 1920x1920 15fps)はカメラ単体では設定できないため、あらかじめアプリで設定しておく必要があります。

THETAに対してbublcamが「しっかりと撮るカメラ」である以上、THETAではできない画質を求めたいところです。
さあそれではお待ちかね、同じシチュエーションで、THETAとbublcamでの撮り比べです。今回は、あえて非常にシビアな環境で撮り比べてみました

まずは、太陽光の直射がある環境(日の入り)です。


sunset at Griffith Observatory (THETA) - Spherical Image - RICOH THETA

どちらもよく見るとレンズの境目がわかりますが、太陽の直射があるわりにはフレアは抑えられており目立たぬ仕上がりになっています。オートで撮影したのですがホワイトバランスが双方だいぶ異なっています。これは好みの問題でしょうか。(個人的には両者の中間くらいの色だと良かったかなあ)

しかしよく見るとbublcamのほうは一部ステッチにミスが出ているところがあります。このあたりは多眼の宿命とでもいいましょうか。

撮影した全天球(Equirectangular)写真のサイズはTHETAが3584x1792、bublcamが5376x2688になります。数値上はbublcamのほうがきれいですね。
では、実際の解像力を比べてみましょう。Equirectangularの写真を一部拡大して見てみます。
上がbubl、下がTHETAです。
あまりかわらないようにも見えますが、木の枝を見ると微妙にbublのほうが解像しているでしょうか…。ただ写真サイズほどの差はないようにも見えます。

さて、つぎに非常に暗い環境下(屋内)を撮ってみます。

dark room sample (THETA) - Spherical Image - RICOH THETA

また結構色味が変わっています。bublは赤っぽく、THETAは青っぽくなる傾向があるみたいですね。
おなじくEquirectangularの写真を一部拡大して見てみましょう。
こちらは結構差がついてます!THETAはノイズこそ少ないものの、ノイズリダクションのフィルタが効き過ぎて細部が塗りつぶされてしまっています。そのあたりbublはノイジーではありますがよくディティールが残っていますね。暗所ではTHETAよりbublのほうが強そうです。



さてさて、では期待の動画はどうでしょうか。上が「低画質・高フレームレート」下が「高画質・低フレームレート」の動画です。
スペックシートによると「1440x1440 30fps」または「1920x1920 15fps」とありますが…
この解像度はあくまでも撮影時(=4眼レンズの生撮像)の記録解像度であり、Webサービス側でステッチしたあとは「1984x992」または「2688x1344」になります。(静止画撮影時は4眼の生データが3840x3840で記録されていますので、動画の1920x1920は静止画の4分の1、1440x1440は約7分の1の情報量ということになります)

また、スペックにある30fps/15fpsは現状出ておらず、実際に撮影してみると1440x1440時で23.385411fps、1920x1920時で14.509584fpsのファイルができあがります。なんというか、微妙に追いついてないような感じ?

というわけで撮影された動画はこのようになります。…うーん、フレームレートはもう一息…!

撮影時、カメラとWiFiで接続したスマホではカメラからのライブビューが見えています。よく見るとだいぶ画質が落としてあったり、一部ステッチが破たんしていたりなど「ライブ処理」ならではの感覚もありますが、これがリアルタイムでストリーミング放送できるようになるとワンチャンあるかもしれません。(今は特にライブビューの映像を外に出力することはできない)


総括します。
動画はまだちょっと残念な感じ、なので動画を目的としてbublcamを買うのはあまりおすすめできないです。
静止画はそれなりの画質が確保されているので全天球カメラとして役立つ場面はありますが、ステッチがインカメラでできず、専用のアプリケーションが用意されているわけでもなくWebサービスへのアップロードが要ることから、Webサービスへの依存(サービス終了したらどうしよう…)不安や大量処理のしにくさがあります。撮影された画像をAutoPano Gigaでステッチしなおすことはできなくはなかったので、Webサービスに依存しないワークフローの構築自体はできるかもしれませんが、だったらQBiC Panoramaでもいいかなあという気もします。
複数のアクションカメラを束ねて全天球撮影をする従来の手法は、カメラ個々の充電管理やデータ転送・ワークフローの煩雑さからどうしてもカジュアルに全天球撮影するというわけにはいかず、専用機にはその部分のブレークスルーを期待したいところです。
しかし、bublcamはカジュアルに撮る、というところまでは振り切れておらずいろいろと撮るのに下準備(三脚を設置し水平をとる、というような)や後処理(Webサービスへのアップロード)が要るところがまだちょっと残念なところです。そういったところが、使っていて「もう一息かなあ」という印象です。(そういう意味では、あらためて今回bublcamを使ってみることで2年前の製品であるTHETAがいかに細部まで考えられて作られたものなのか、というのを実感したとも言えます)
ただこのあたりは周辺ツール(PCアプリなど)の整備で良くなっていくところでもあるので、今後の発展に期待が持てます。

ひとまず、動画の撮影は少なくともスペックシート通りには撮れるようにはなって…ほしいかなあ。やっぱ30fpsでは撮りたいですよね。

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