10年前からデジタルカメラ製品によってはこうした「音つき」写真を撮影できる機能が実はあったり
しましたが、その後の製品では機能そのものが廃止になったり(カシオEXILIMシリーズは2002年の
「EX-M2」で音声付きの静止画撮影機能を搭載、2008年モデル以降廃止)とあんまり世の中では
流行りませんでした。
ところがまた最近スマートフォンの写真アプリなどでこの「音声付き写真」が復活の兆しをみせています。
視聴するのに時間がかかる動画と違い、瞬間を切り取った「写真」でありながらその場の空気感をも伝えることができる「音声付き写真」。デジタルカメラに機能として搭載されていた当時は「重たい処理である動画の代替物」である側面もありましたが、ひょっとして今の技術なら快適に「音声付き写真」の魅力を味わえるんじゃなかろうか…?と思い、実運用をめざして試行錯誤をしてみました。
先にまとめ
このエントリ、この後がとても長いので先にまとめだけ。- 数千円のボイスレコーダを1個買って足すだけ(+出発時に1回時刻合わせする手間を増やすだけ)で普段使っているデジカメで撮影する写真が全部「音声つき写真」になります
- 実際撮ってみると撮影も簡単だし視聴も簡単だし写真“プリント”もできるしその場の雰囲気も残るし結構いいよ!
撮るのがめんどくさい、を解決する
画質も含めていろんなカメラ(スマートフォンやミラーレス一眼などなど)・いろんな撮影モードが出てきているのに「音声付き静止画」を撮るためには専用のカメラ・専用の撮影モード(または専用のアプリ)じゃないといけない…ってそりゃ使いませんよね。スナップ撮影なんて気軽に撮ってなんぼ。撮るのに“儀式”が要るようなものは使いにくいです。いま、普段自分が使ってる、普通のカメラで「音声付写真」を手軽に、気軽に楽しむ方法はないもんでしょうか。
…とぼんやり考えていたらひらめきました。
10年前とは違い、今は数千円で数十時間連続mp3ステレオ録音できる小型のボイスレコーダーが買えてしまいます。そう、お出かけしている間、ボイスレコーダーを常に録音状態でポケットに突っ込み持って歩けばいいんです。録った「音声ログ」から後で写真データの該当時間数秒だけ切り抜いて貼ればいい。これなら自動処理でできるんでないか!
概念としてはGPSロガーで移動軌跡を保存しておいてあとから写真にジオタグ貼るのと同じようなものですね。
…というわけで、実験したところちゃんとできた上に結構楽に運用できることがわかりました。実際の運用はこんなかんじになります。(私はもう1ヶ月半ほど家族写真を“音声付き写真”で撮影してますがほとんど面倒を感じていません)
- 普段使っているカメラのほかに、長時間連続録音可能なボイスレコーダーを用意します。私はSONY ICD-UX523を買いました。
- でかける前に、持ち歩くカメラとボイスレコーダーの時刻をあわせておきます。この手順を省略してあとからずれている分だけ補正することもできますが、やはりあらかじめあわせておいたほうが面倒がない(撮影した日によってずれが違うのはやっぱ後が地味に面倒)ので先に秒単位であわせておくほうがいいです。慣れれば出発時に1~2分あればいいのでそう手間でもありません。スマートフォンなど基準とする時計を決めておいて、その時計にあわせて全カメラとレコーダを設定するのが楽です。
- ボイスレコーダーを録音状態ホールドにして、ポケットに突っ込んでおきます。日常会話なども録音されてしまいますが、こんな長時間録音データなんぞ聞き返すことなどない(写真用に切り出したら捨てる)ということで細かいことは気にしない。
- 帰宅したら、ボイスレコーダーと写真のデータをPCに突っ込み、スクリプトを一発実行します。すると自動的にファイルをスキャンし、写真の撮影時刻前後10秒間ほどの音声をボイスレコーダーのファイルから切り抜きさらに切り抜いたMP3ファイルに写真を「カバー(アルバム)画像」とし埋込んで保存します。つまりボタン一発で撮った「写真」がすべて「音声付き写真ファイル」に早変わり!
- 終わったらボイスレコーダーのファイルを消してまた充電しておきます。おわり。
ただ本当にボイスレコーダーをポケットに突っ込んでしまうと衣擦れの音などが入ってしまうので、携帯場所はカメラバッグなど「音は拾えてこすれない」ところをちょっと工夫するといいでしょう。
やってみればわかりますが、どのカメラで撮影しても(携帯電話で撮影しても!)あらゆる写真に「音声」がつくのはシンプルに楽しいです。(※この変換プログラムはただいま公開準備中)
「視聴がめんどくさい」を解決する
次は視聴のめんどくささを解決します。写真は周辺環境も含めて考えるとJPEG以外のファイル形式は考えたくないし、JPEG以外のファイルもセットで管理するのはとってもめんどくさい。JPEG一枚にすべてがおさまればいいのに!…と、思って当初はJPEGのEXIFを拡張して音声を埋め込もうと試みたのですが、これはあまりうまくいきませんでした。(EXIF自体には「関連する音声ファイル」を登録する項目はあるにはあるのですが…)
ほかにも「写真JPEGをMotion JPEG形式として1フレームのAVIに突っ込む」などいろいろ試してみたのですが、結局(先の撮影手順にもちらりと書きましたが)MP3のカバー画像(アルバム画像)として写真自体を音声ファイルに埋め込んでしまうのが一番よさそうという結論に達しました。写真として印刷する際のためにJPEGとMP3をセットで保存しておく必要がありますが(ただJPEGを紛失してしまった場合でもMP3から元のJPEGを取り出すことは可能)、PCで再生する場合はMP3だけ再生すれば写真と音が楽しめるので、このMP3ファイルを「音声付き写真ファイル」として扱えば快適に視聴できます。
またWindowsエクスプローラーで「音声付き写真ファイル」にもサムネイルとして写真がちゃんと表示されるのも便利。
ただこの「音声付き写真ファイル」、Windows Media Playerではアスペクト比が無視され写真が正方形にされてしまいます(誰だこんな仕様にしたのはー!)。この問題はVLCなど他のプレイヤーを使えば解決します(この項冒頭の画像がVLCで再生したものです)。
音声付き写真を共有する
Audio:tmblr.co/ZfnlitY3qTxU
— MIROさん (@MobileHackerz) 11月 26, 2012
「音声付き写真ファイル」をSNSで「シェア」するツールとしてはいまのところtumblrが一番具合がよさそうです。tumblrにアカウントを作り、先の「音声付き写真ファイル」(=写真をカバーアートとして埋込んだ音声mp3)をオーディオファイルとしてそのままアップロードすることで、音声つきのtumblrへの写真貼り付けとTwitterなどへの公開をさっくりと行うことができます(写真は正方形にトリミングされてしまいますが)。
ただし、通常Tumblrに設定されているテーマではこの「写真」(カバーアート)は表示されないので、音声(オーディオ)ファイル投稿時に写真も表示するよう、あらかじめ設定でテンプレートを修正しておく必要があります。
Tumblrの設定からテーマ編集をクリックし、次に出てくる「HTMLを編集」をクリック。
{block:Audio} の下、{AudioPlayer***} の直前(どこにあるかはテーマによって違います)に
という行を挿入します。これで「保存」すればOK。{block:AlbumArt} <img src="{AlbumArtURL}" /> {/block:AlbumArt}
音声付き写真をプリントする
さて、最後は「音声付き写真のプリント」です。普通の写真はプリントできますが、「音声つき写真」も手軽にプリントして人に渡せるようになったら…いいですよね!これも10年前ならともかく、2012年の今なら解決できます。たとえばAlibaba.comではこんなモジュールがUS $0.5388 - 1.5388 / Pieceで掲載されています。この単価で書き換え可能な音声モジュールが手に入る!つまり、このモジュールに音を書き込んで写真に貼り付けるだけで「音声つき写真」ができあがりというわけ。この単価なら人に渡すことだってそれほど苦ではありません。
…しかし、さすがに最低ロットがでかい(3000個…)のでこのまま個人でどうこうというわけには…
と思いきや!単価こそ高くはなりますがebayなどを検索すればこういったモジュールを個人相手に売っている人もちらほら見つかります。というわけで、まずはそういう小売からモジュールを購入して試してみることにしました(最初は自分でモジュールを作る気満々だったんですがどう考えても量産されてるものを買ったほうが安い…)。
これが実際の音声モジュール。先に挙げたebay出品から購入しました。2セット(モジュール10個)+書き込みツール2個、商品代金$69.98, 送料$25.65,あわせて$95.63。10個でこの価格だとほいほい人にあげるのはさすがに厳しいですが、数がまとまれば充分に安くなるのはわかっているのは未来を感じます。自分でももっと活用していきたいので今後なんとか数をまとめて安くモジュールを入手したいところです。
“プリント”したい写真を用意します。場合によってはプリントも3D写真を使ってみるのもいいでしょう。そう、今回の“音声つき写真”手法は使うカメラを問わないので3D写真+音声なんてのも特に意識することなく撮影可能なのです。手持ちの「いつもの」カメラ、「いつもの」撮影方法がそのまま使えるのがポイント。
プリントした写真のmp3ファイルを音声モジュール書き込みソフトに読み込み、USBを使ってモジュールに書き込みます。ちなみにこの書き込みツール、USBはHIDデバイスとして標準ドライバで認識しWindows 8(x64)でも素直に動きました。プログラミング(書き込み)そのものはものの数秒で終わります。
そしてモジュールのシールをはがして写真の裏に貼り付けて終了!写真の裏にあるボタンを押すと写真を撮影した時の音声が流れ当時の雰囲気を楽しむことができます。「音が出る写真」ってなんか未来というかレトロフューチャーっぽい感じです。
余談
どうしても「音声付き写真をプリントする」というと音声情報をコード化して印刷する(スキャントークやボイスQRなど)ことを思い浮かべます。写真に“音声メッセージを付加する”場合(追加の情報が得られる場合)はこういった外部デバイスを使って「一手間かけて聞く」アクションを取ってもらうのもいいかなと思うのですが、今回狙ったのは“写真に環境音を付加して雰囲気情報を増強する”ことなので、別のデバイスを持ち出させるより写真単体で“鳴る”ほうがいいかなあと。わざわざ別デバイス引っ張り出してまで環境音は聞きたくないと思うんですよね。どうですかね。魚眼レンズいいよ記事の時とおなじくこの「音声付き写真」が本当に真価を発揮するのは家族スナップです。子供のはしゃぎ声が入ったスナップとかとてもすてきなのですが、Webに作例としては出しづらいので有用性をアピールしづらいというところがちょっとつらいところ。
ともあれ、写真(しかも場合によっては3Dだったりする)から音が出る、ちょっと不思議な感じのスナップ撮影。いまなら意外なほどリーズナブルなコスト、リーズナブルな手間でできたりするのでした。
※2012年12月1日(土)12:00~17:00、2日(日)10:00~17:00、日本科学未来館にて開催されるMaker Faire Tokyo 2012に出展します。この音声つき写真プリントの現物もご覧になれます