新車の価格が730万円の車、というとわりと立派に「高級車」と呼ばれるレンジの価格帯なわけですが、そんな高級車の現行モデル正規新車(しかもトヨタ車)が正規ディーラーにて60万円で買えてしまうのでハックして遊ぶとすごく楽しい、という話をします(タイトルはizmさんのblogにあやかりました)
730万円の高級車
この話の主役は、トヨタ「MIRAI」という車。メーカー希望小売価格(消費税込み)7,274,880円 。
…と車名を出したところで(詳しい人はそれ以前に写真を見た段階で)「あぁ~…」というなんともいえない声が出るかもしれませんが、そういう人は次の項目まで飛ばしていただいて構いません(笑)
この「MIRAI」。2014年末から販売されているモデルで、2018年に一度マイナーチェンジがされています。そろそろフルモデルチェンジがされるのではないか?と噂されてはおりますが、まだ現役モデルの車種。
全長4,890mm・全幅1,815mm・全高1,535mm。少し大柄のボディにパワートレインは最高出力154psと若干控えめな数値と思いきや、最大トルクは34.2kgf-mとかなり太くパワフルな加速をすることができます…って、そう。このぶっといトルクの正体はレシプロエンジンではなく 電気モーター。
MIRAIは電気モーターで走る車であり、さらにはその電源はバッテリーではなく 燃料電池 。トヨタ「MIRAI」は、水素を使って電気を発生させ、その電気で走る 世界でも珍しい量産水素燃料電池車 なのであります。
というわけで、そもそも変わった機構の特殊な車。数が出るわけでもないしもともと燃料電池の機構がコスト高なこともあってお値段がそれなりに(730万円)してしまうわけです。
が、ここは天下のトヨタ。「高い機構が入っているのでお高いのです」では片付けず、それなりに内装などもお値段相当に仕上げており、内外装ともに安っぽさはありません
シートは合成皮革ですが、しっとりとした落ち着いた質感です。各席シートヒーターが内蔵されており冬場はすばやく体を暖めることができます。
ドリンクホルダーなどの装備の快適さはさすがのトヨタ車。こまかいところではQi対応の充電器も標準搭載されています。
730万円の高級車が安く買えるカラクリ
で、なんでそんな高級車が60万円で買えるのか。
この「MIRAI」。先述の通り水素燃料電池車であり、エネルギー源は圧縮水素であり、走るためにはガソリンを入れるでもなく、自宅や充電設備で充電するでもなく、 水素ステーションで給水素する 必要があります。
水素ステーション???そんなのどこにあるの???という人が大多数でしょう。2019年8月の時点で、日本全国で水素ステーションは約100箇所しかありません(ガソリンスタンドは約29000箇所)
しかもこの水素ステーション、平日昼間しかやってなかったり、さらには移動式といって複数箇所を巡業するため「週に」数時間しか営業しないなんて箇所もあります。完全に、お役所の啓蒙用車両かお付き合いの営業車両かでしか使われない想定といいますか…。
と、まあ普通に考えたら とても不便 な車なわけですが、国としては戦略的に「水素エネルギー」というものを(その善し悪しは別として)推していきたい事情があるわけです。
卵が先か鶏が先か。水素ステーションが増えないと不便で水素燃料電池車なんか買えないし、水素燃料電池車が増えないと水素ステーションなんて作っても無駄だし。
そう。この鶏・卵の膠着状態をなんとかするために。さつたb…補助金が、出ます。びっくりするくらい。
さらに。国などの補助金だけに頼らずに、トヨタ自身も、かなり有利な条件を出してくれるのです。びっくりするくらい。
元値730万円の新車が60万円で買える
ポイントその1: 4年の残価設定型ローン
「残価設定ローン」という仕組みがあります。車の費用全額を支払うのではなく、一定割合の「残価」を残して一部だけローンを支払い、ローン最終回に車を返す(売却する)ことで設定した残価ぶんの返済とみなす、というもの。
一定期間で車を返さなければいけない(または最後に残価を支払わなければいけない)かわりに月々のローン支払い額を下げることができる、という制度です。
で、MIRAI。MIRAIで4年間の残価設定ローンを指定すると 4年後の残価が50% という設定になります。普通「高残価」と言われる車でも 3年で 50%くらいなので、4年で50%はかなり思い切った設定。しかも、多少こすったくらいは大丈夫(下取り時の査定点数がかなり甘い)という親切設定。
つまり(4年後に車を返すという前提ですが)この「4年の残価設定型ローン」を選択することで
7,274,880円のうち
3,637,440円
支払えばよいというわけです。
ポイントその2: 国と東京都の補助金
先にちょっと書いたとおり、鶏・卵の膠着状態をなんとかするために国と東京都(などの自治体)が 水素燃料電池車の購入に対して補助金を出しています 。CEV補助金(国の補助金) 2,020,000円
東京都の補助金 1,010,000円
計 3,030,000円
なんと、補助金で 約300万円もらえます 。桁間違いじゃないですよ!「300万円」です。
3,637,440円 - 3,030,000円 = 607,440円
おどろきですね!
なお、「国」「東京都」だけでなく、自治体によってはさらに「区」のレベルまで補助金が重ねがけできたりします!
(例:葛飾区 250,000円)自分の区は、去年まであった補助金制度(※50万円)が今年度なくなってしまいました…アテにしていたのですが…(これが残っていたら「元値730万円の新車が10万円で買える」というインパクトだったのですが…)
ポイントその3: 各種税金優遇
なお、そのほかにも自治体によってはいろいろと優遇があります。
東京都の場合、自動車税全額免除(5年間) 、自動車取得税全額免除など。毎年4万円ほどの自動車税がゼロになるのはありがたい。
ほかにも、地味なところでは東京都が運営する駐車場の割引なんでのもあったりします。
注意点
60万で買える…といいつつ、ほかに金利(※残価設定分にも金利がかかるので注意)やナビなどのオプション価格、納車関連諸費用などかかるのでもう少し出費はあります。いっぽう、ディーラーによっては多少の値引きも引き出せると思いますのでいいかんじの落とし所を狙いましょう。また、補助金が出るのはいったん支払った後です。頭金なり資金繰りは必要です。
で、このテクニックが昨年広まった結果、実は最近MIRAIはけっこう人気がありいまのところ注文から納車までは半年くらいかかるみたいです。各種補助金は 該当年度の予算が尽きると終了 なので、今から注文すると納車のころには年度予算がなくなっている可能性があります(笑)
その場合は納車のタイミングを調整したり、来年度(4月)予算の補助金申請をするなどの対応が必要になります。
実際に買ってみてどうか
乗り心地はかなりいいです。EV乗ったことがある人はよくわかると思いますが、エンジンがないのでとてつもなく静かで、太いトルクによる力強い加速(テスラみたいな暴力的な加速ではないですが…)。車としてはとてもよくできています。長距離乗っても疲れません。
ナビなどの装備や運転補助などの先進安全装備はちょっと古さは感じますが、これは後述のとおり「ハックして遊ぶ」材料として見るならあまり気にしないところ。
ただ、ナビについているT-Connectのオペレーターサービスはなかなか面白いです。ボタンぽちーで車内蔵の通信モジュールによりハンズフリーの通話がつながり、オペレーター(生身の人間)にお願いすると遠隔でナビの目的地設定をしてくれたりします。ちょっとセレブな気分になれる。
水素ステーションでの給水素コストは、普通のガソリン車並 。ハイブリッド車と比べるとハイブリッド車のほうが安上がり。EVと比べるとEVの圧勝。ランニングコストの安さはあまり期待しないほうがいいです。ただ私は前車がRX-8でハイオクもりもり消費していたのでそれと比べるとだいぶ安いですが。
水素ステーションは思いのほか増えています。私の自宅近くはものすごい過密状態で、いくらなんでもそんなに作らんでもいいだろ、というくらい作っています。自分の使い方(主に自宅周辺、遠出するのはほぼ健康保険の保養所)だとほぼ困らないという感じ。該当記事にある湯沢の保養所だけ航続距離的に微妙かつ経路に水素ステーションがなくてつらかったのですが、今年度高崎市にできるようです。
「水素エネルギー」とよく言われますが、水素自体は水素そのままの状態で採掘できるわけではなく、なんらか別の状態からエネルギーを投入して生成する必要がある、エネルギートランスポート媒体です。そして、たんなる送電線による電力伝送などと比較するとどうしても「水素」の筋の悪さみたいなものはどうしてもあります。
が、個人が国がつくろうとしている流れにのっかって楽しむぶんにはとても面白いというか、特にマンション住まい、かつ、マンション駐車場に充電設備がない、かつ、EVの乗り味を楽しみたい、みたいな場合はそれなりにおもしろい落とし所かなとも感じます。
ハック!ハック!ハック!
水素燃料電池車トヨタMIRAIに後付けのオープンソース自動運転化キット https://t.co/NMOuIJHwse ぶら下げてオートパイロット動かすことに成功した(ルームミラー下にぶら下がってるのが本体) #車ハック pic.twitter.com/ZxuHz7c9lj— MIRO (@MobileHackerz) August 18, 2019
と、「買う」ところまでで話がずいぶん長くなってしまったのですが…
「車は、ハック可能」 です!
comma.aiが作っている「車に後付けで自動運転機能を追加する、オープンソースのシステム(OpenPilot/EOS)」というものがあります。
車のあらゆるセンサはCAN(Contoller Area Network)というネットワークで車内接続されており、CANをハイジャックすることで車のあらゆる情報を取得できる(たとえば「車速」ひとつにしても、 四輪のタイヤすべて独立していまどのタイヤがどういう回転をしているか、まで わかります)だけでなく、 ステアリングにトルクを与えて回したい方向に回す こともできるのです。
comma.ai のOpenPilotはトヨタ車にはかなり広く対応していますが、MIRAIには対応していなかったので自分で対応作業を行ったのですが、車のハックはかなりたのしい!です。
この「車ハックすごくたのしい」という話はまた別記事でまとめたいとおもいます。