2014/08/23 ■ 3D小説連動鬼畜ゲーム「シロクロサーガ」とはなんなのか Twitterでつぶやくこのエントリーをブックマークに追加このエントリーを含むはてなブックマーク

以前本blogで「7月25日午前0時に始まった「3D小説 bell」が面白すぎてやばい」として紹介した「3D小説」。
  • 小説がWeb上で連載されている…のだが
  • その小説の時間軸は現実世界と完全に同期している
  • 小説の世界が現実世界とリンクしており、また現実世界から小説の世界に干渉できる
  • そして現実世界からの干渉によって物語の進行が変化する
という「現実と小説世界がリンクした、“現実に飛び出した”小説」なわけですが、その後1ヶ月ほど経過しまして本当に面白すごいとしか言いようがない状態になっています。

その中でも大きめな仕掛けとして、作中に「シロクロサーガ」という謎のフリーゲームが登場します。これ、普通に遊ぶと何をどう表現してもクソゲーとしか言いようがない代物なのですが、なぜかこの普通に遊んでしまうと何をどう表現してもクソgなゲームを普通に遊んでしまう実況動画などが出てくるに至り、このゲームいったい何がどうなっているのか「3D小説の、現実と小説のつながりはこんなんなってる」という文脈で説明してみようかと試みます。いや、なんというか小説・ゲーム世界・現実が混沌としていて小説の読者がものすごい勢いで小説世界に巻き込まれてえらいことになるのです。ゲーム自体にまったく興味はなくとも、現実と虚構のミックスという世界に興味があればとてもおもしろい事例だとおもいます。


「シロクロサーガ」は誰が作ったのか

シロクロサーガのダウンロードページのURLは「neumann.2-d.jp」、ドキュメントには「作者:ノイマン」と書かれています。この作者の「ノイマン」という人、実は小説の登場人物です。作中にもシロクロサーガを作っている様子の描写がたびたび登場します。
目を覚まして、ベッドでうだうだして、それからリビングに出ておどろいた。ノイマンが目の下に、大きな隈を作っていた。
彼女は私が眠る前と同じ姿勢で、一心不乱にノートPCを叩いている。
「もしかして寝てないんですか?」
「寝てるわよ。それなりに」
(中略)
「忙しいんですか?」
「締め切りがね。あと3日」
それはそれは。
プロフェッショナルではないにせよ、私も脚本を書くから、締め切り3日前の心境はよくわかる。
「伸ばせないものなんですか? 締め切り」
「んー、いろいろあってね。ちょっとした食事会があるのよ。そこで依頼人に会うから、ある程度形にしておきたいの」
■佐倉みさき/7月30日/9時)(※この場面は現実の7月30日9時に公開された「リアルタイムの」情景です)

「シロクロサーガ」はどのようにして公開されたのか

さきほどの小説の場面で、シロクロサーガの作者が「3日後」に「ちょっとした食事会」で「依頼人に会う」と言っていますが、この食事会は現実に開催されており、先に別の場所で入場証をゲットした読者が食事会に潜入することになります。言っていることがよくわかりませんか?ええ、小説の登場人物があつまる、小説の中の食事会に、読者が潜入したのです。





この「食事会」の最後、先のノイマンの「依頼人」から、読者に対してシロクロサーガのダウンロードURLが示されたのでした。


ちなみに余談ですが、この食事会の様子はニコニコ生放送されており、そのニコニコ生放送のコメント欄を使って読者と小説の(食事会に参加していない)登場人物がコミュニケーションを取るという実に複雑な状況にありました。

「シロクロサーガ」は何のためにあるのか

実はこの「食事会」に先立って、小説本編では小説の主人公がドラゴンに襲われて死ぬという謎の「未来の場面」が示されていました。
 巨大なドラゴンが、長い首を折り曲げて、オレを覗き込んでいた。
ドラゴンは巨大な口を開いて叫ぶ。
あまりに大きすぎる音は、よく聞えない。バスの窓ガラスがびりびりと振動する。殴り飛ばされたように、目の前のオレが尻餅をつく。それから這うように逃げ出す。
――と、前方に、ひとりの女性が立っていた。
奇妙な女性だ。髪が青い。全身がほんのりと発光しているようにもみえた。そして、それ以上に、ほんのりと。
彼女は透けているようでもあった。
――幽霊?
そんな言葉が思い浮かぶ。通路の一方にはドラゴンがいて、もう一方には幽霊がいる。
――めちゃくちゃだ。
思考を、放棄したくなるくらいに。
でもとにかくオレは、ドラゴンから逃げる。
青白く輝く幽霊は、右手のドアの向こうへと消えていく。
オレはそのドアのノブをつかんだ。が、開かない。
――鍵がかかっている?
オレは数度、ガンガンとドアノブを動かすが、やはりドアは開かない。気がつけば間近に、ドラゴンが迫っていた。
そいつは雪崩のように、オレにのしかかって。
オレは頭から巨大な口に飲み込まれ、へその辺りで噛み千切られ、まっぷたつになって死んだ。
じゅるり、とそれが血をすする音が聞こえた。

【BAD FLAG-?? 非現実】
■久瀬太一/8月1日/24時05分
そして、「この(未来の)場面をおまえたちの力でなんとかして回避しないと、物語は悪い方向に進むよ」ということが小説運営側から示されます(BAD FLAG)。これを読んで「ど、ドラゴン!?」と混乱していた読者はシロクロサーガが呈示されたことでようやく理解します。「つまり、主人公は今後ゲーム世界に放り込まれるので、読者側はそれまでにシロクロサーガをどうにかして“BAD FLAG”を回避するように仕向ければいいってことだな!」

ここまでのまとめ

つまり「シロクロサーガ」は、小説の登場人物が、小説の登場人物の依頼で、小説の主人公のために作り、それをたまたま読者が入手した、という構成のゲーム…というわけです。
シロクロサーガのダウンロードページにはこのようなことが書かれています。
本作は「ある特定のプレイヤー」向けに作成しているものであり、ゲーム内の情報だけでは先に進めない部分があります
この警告は飾りではなく、今後ゲームを進めていくためには読者と小説の主人公が連携しないといけないつくりになっているのです。

読者全員 vs ゲーム

というわけで読者のもとにゲームが呈示され「ひとまずこれを進めればいい」ことがわかったわけですが、ゲーム自体は驚くほどの鬼難易度。こんなのわかるか!!!!という解法を求められ続けます。これ、なぜかというと…
 あなた――「読者たち」が協力し合い、問題を解決しなければならない。
3D小説 公式サイト
あくまでも読者側は「読者たち」。全員で協力して、誰か一人でも突破できればいいのです。ゲーム攻略にしても集合知全開この超難易度のゲームでもおそるべき速度で攻略が進みます
こうやって「よってたかって」攻略していると、どんなに難しい仕掛けでも誰かひとりが突破口を見つければ先に進めるため、ゲームの難易度は逆に「こんなのわかるか!!!!」級でないといけないとも言えます。

小説読者と主人公が連携して謎を解く

しかしこうやって集合知全開で攻略していても、どうしても先に進めないタイミングが出てきます。そして、ここで「読者が(ゲームを通じて)入手できない情報でも、ゲーム世界の中で主人公が動けば入手できる」ことが示されていきます。
「たぶん今ごろ、ソルのみんなががんばって攻略中だよ。でもお前が動かないと、みんなも困っちまうんだ」
■久瀬太一/8月2日/24時

 その前に、オレが叫んだ。
「なあ、あんた。ちょっと待ってくれ」
少しでも情報を収集しようと決めたようだ。
青い髪の女性が、ゆっくりとこちらを向く。
続けてオレは叫ぶ。
「なんでもいい。知っていることを教えてくれ」
小さな声で、青い髪の女性が答える。
「マコト」
と彼女は言った。
――え?
マコト?
人名、だろうか?
彼女は続ける。
「マコトに伝えて。私は、幸せだった、と」
――いや。
誰だよマコトって。
■久瀬太一/8月2日/24時

この「マコト」という名前は小説本文中にしか登場しない、ゲームだけではわからない情報ですが、ゲームを進めるためには必要なキーワードなのです。
つまりこのゲームは、
  • 読者がゲームを進め、攻略法を調べ
  • その攻略法を小説内主人公に伝え、主人公を先の場面に進め
  • さらに読者がゲーム内で手に入らない情報を得るよう主人公にメールで指示
  • 結果として小説本文内で主人公が「行動」し、あらたな手がかりを得
  • その手がかりをもとに読者がさらに先を攻略する
という流れで先に進めていく、いやむしろそうしないと先に進めることができない構造になっているのでした。そりゃ小説本編見ないでゲームだけ見ていてもわかるわけがない!

どのようにして小説の主人公に「シロクロサーガ」を攻略させるか

というわけで読者が協力して小説の主人公に鬼畜ゲーム「シロクロサーガ」を攻略させる必要があることが示されたわけですが、ではどうやってこのクソ難しい攻略手順を、小説内の主人公に伝えればいいのだろうか…というところに、小説本編にこんなくだりが登場します。
 ――制作者からだ。
オレは一通だけ届いていたメールを開く。



青と紫の節、9番目の陰の日に、このページが君を救うだろう。
http://j.mp/korede_kanpeki



青と紫の節、9番目の陰の日。
その言葉には、聞き覚えがあった。
あのドラゴンに食われる、わけのわからない未来だ。
オレはそのアドレスをクリックする。
――だが。
表示されたのは、奇妙なエラーメッセージだった。

あなたはまだ、このページを閲覧する権利がありません。
青と紫の節、9番目の陰の日をお待ちください。

なんだ、それ。
「どうかしたのかい?」
と八千代が声をかける。
スマートフォンを放り出して、オレは首を振る。
「いや。なんでもない」
そういえば、あのドラゴンの前に立っていたオレは、スマートフォンを覗き込んでいた。
――このページを、みていたのだろうか?
いったい、なにが載っているというのだろう?
アドレスは、これで完璧、と読める。
馬鹿げたアドレスだと思った。
本編で主人公がURLをクリックすると「エラーメッセージ」が出ることになっていますが、このアドレスを読者がクリックすると「これで完璧!シロクロサーガ攻略本」という表紙だけが用意されたGoogle docsに飛ばされます。そう、オンライン上で編集できるGoogle docsに、「攻略本」の表紙だけ用意してあるのです。



ですよねー。
というわけで、猛烈な勢いでよってたかって読者による攻略本編集が始まります。小説の登場人物が、小説の登場人物の依頼で、小説の主人公のために作ったゲームの「攻略本」を、小説の読者が編集して、小説の主人公に読ませるわけです。

その結果、一晩にしてその時点で攻略が終わっているところまではほぼ仕上がってしまいます。



この「小説の主人公のために、読者がつくる攻略本」が最終的にどこまでの分量になったかは、最終版をぜひごらんください。(ちなみに私はこの攻略本のなかで、「ページ左上に★印がある箇所は時間との勝負」「2-1」「2-2」「3-1」「3-2」「西の棟・東の塔・王の間について~17・18・19項」を書きました。がんばった!(笑))

「攻略本」を通じた、読者と「未来の主人公」とのリアルタイムコミュニケーション

あくまでも小説の主人公が「ゲームの世界」に放り込まれるのは、未来のある日(実際は8月22日の18時から始まりました)。そこまでの間のは「主人公が、未来の自分の姿を見ている」情景下でゲームの展開が示されます。

というわけで、
  • 読者が書いた「攻略本」を「未来の主人公」が読みながらゲームを攻略している
  • ↑その情景を「今の主人公」が俯瞰し眺めている
  • ↑という様子が描かれた小説本編を、読者が読む
という多段の複雑な構成になっているわけですが、あるときそんな本編でこんな反応が示されます。

 ――ん?
スマートフォンを覗き込んでいたオレが顔を上げる。
「読めてるよ。みんなには助けられてばかりだ」
■久瀬太一/8月8日/25時10分

このとき、「攻略本」の中に「久瀬くん読めてる?読めたら返事して!」とひとこと追記した読者がいたのです。この本編更新はその追記からわずか4分後

  • 読者が書いた「攻略本」を「未来の主人公」が読みながらゲームを攻略している
  • ↑その情景を「今の主人公」が俯瞰し眺めている
  • ↑という様子が描かれた小説本編を、読者が読む
  • ↑読者が「攻略本」に、「未来の主人公」あてのメッセージをリアルタイムで書き込む
  • ↑に対して、「未来の主人公」が反応し、それが小説本編に反映される
ということが起こったわけです。そこからは「攻略本」を通じて、さらに

  • ↑「未来の主人公」経由で「未来の主人公の情景を俯瞰で見ている現在主人公」に対してメッセージを送る
も含めて「攻略本」を通じた、読者と「未来の主人公」とのリアルタイムコミュニケーションが始まります。

 窓の向こうのオレは、きょろきょろと周囲を見渡す。
「おい、オレがみてるのか?」
と奴は言った。
なぜ気づく? ……いや、考えればわかることかもしれないが、なんか気持ち悪い。
「幸弘が越智幸弘なら、仲がよかったのは白石隆、山本美優のふたりだ!」
なぜいきなり、そんなことを叫び出す?
たしかに越智幸弘と白石隆、山本美優の3人は古い友人だ。もうずっとあっていないけれど、同じクラスだったころは、よくつるんでいた。
「たぶん文章のいくつかが、黒く塗られていて読めない! オレは16ページに進む! そっちに頼む!」
と、窓の向こうのオレは叫んだ。 
■久瀬太一/8月8日/25時30分)(この「窓の向こうのオレ」は未来の主人公、見ている主体は現在の主人公のこと)

これは本当に深夜、リアルタイムにこの複雑な構成でカオスにダイナミックに進行したので、まったくもって
 隣できぐるみが、楽しげに。
「なんかすごいことになってるなぁ」
と呟いた。 
■久瀬太一/8月8日/25時45分




こんな感じでした。


そして現状

「シロクロサーガ」というゲーム、つまりは「小説の中で生まれた小説のためのゲームであり、小説の中と読者の現実世界が混沌と混ぜ合わさった世界」であるわけですが、ついに昨日一定の段階までのクリアをはたしました。

ゲームの中で「魔方陣が姉の居場所を指し示している」と言われていたのですが、実際にゲーム内で魔方陣を集めてみるとQRコードになり、
このQRコードを読むと、謎のテキストが生成されるのですが
T94SE45SQSWSESRS#SP6SP11SPLP2SPLPSPLO37STSA40ST44STSA43SLLUSA55
SU55SO33SSST55SI1SA1SS39SE84STSA1SS38SE80STSA1SS41SE76STSA42SS4
0SU42SE46SZSTSS44ST44SE84STSA43SA44ST43STSA43SA44SE89SA41SU43SS
41SG49ST43SE49SRNSNNNENNRNNNE
このテキストなんだろう…?と思っていたら…
 とりあえず受け取って、オレは表紙を開いた。
中表紙には、サクラの話よりはまだしも理解できそうなテキストがある。
『1949 instruction set』
と、そこには書かれていた。
■久瀬太一/8月22日/22時15分
なんとさきの「QRコードを読んで出てきたテキスト」はEDSACのプログラムコードをあらわしていて、EDSACシミュレータで実行すると「14314322343214」という数字列が出力されるということまではわかっています。そして、この数字列が
「このシステムはさらにゲブラーの力を借り、外の世界の特別な地への道標となる、というところまではわかるのですが――」
■久瀬太一/8月22日/22時15分
「ゲブラーの力を借り」道標となる、らしいです。

そして、
「ねぇ、お兄ちゃん」
小走り気味に駆け寄ってきた少年に、声をかけられた。
「門は明日の、16時にひらくらしいよ」
――なんだ、それ。
■久瀬太一/8月22日/22時00分

今日、8月23日、16時に次の門がひらきます。そして公式サイトで示された、この「BAD FLAG」の制限時間は24時。8時間の間になにかの条件をクリアしなければいけないようです。

この「なにかの条件をクリアしなければならない、16時から24時の8時間」。リアルタイム攻略生放送も用意されているようです。はたして何がおこるのでしょうか…!



余談

「食事会」で読者に対して(小説の登場人物が)ゲームのダウンロード先を手渡した際、実は口頭で「感想」を求められているのですが

いやほんと、仕掛け全体を楽しめれば超たのしいんですけど、ゲーム単体ではクソゲーとしかいいようがないんですよねこれ(笑) Related Posts with Thumbnails