これはVTuber tech #1 Advent Calendar 2018最終日の記事です。
ちょうど1年前。
1年前、2017年の年末に「バーチャルYoutuber」という概念が突如ブレイクしました。
2016年にキズナアイが生み出した「バーチャルYoutuber」という言葉が(以後当該ジャンル全般を指しVTuberと呼びます)フォロワーを生み出し、それが2017年末に様々な要因が重なり大きなムーブメントとなり、さらに1年かけて定着していきました。2018年は「VTuberという概念」が、「社会的に」誕生した1年だと言えます。
そんななか、私にとっても今年は激動の1年となりました。かなり以前から「リアルタイムにキャラクターを動かす」という技術については仕事で手がけてきたのですが(例:2012年8月の事例)今年はついにはこれらの技術のための会社をつくるに至りました。人生なにごともフルスイング!
さて。
ここでは、そのVTuberのムーブメントのおり、今年私が開発に関わってきた「VRM」において、2018年に起こったこと、そして2019年以降に起こる「これから」の話を、2018年の総決算として書いていきたいと思います。すみません、技術記事というよりもポエムです。
VRM
VRMとは「VR向けに、人型のアバター(キャラクター)を定義する、プラットフォーム横断型の3Dモデルデータフォーマット」です。人型のアバター(キャラクター)を取り扱うにあたりそれまで統一して取り扱うモデルフォーマットがなかったことから、プラットフォーム互換性を保てるファイルフォーマットをつくろう、というものです。
このフォーマットにはいくつか特徴があるのですが、詳細はVRMのサイトまたはVRMコンソーシアムのサイトをごらんください。
このVRM。設計理念として
多種多様な(人型)3Dモデルデータをアプリケーションからなるべく透過的統一的に扱えるようにする(モデルデータごとの個別設定のようなものをなるべく必要としない)
標準実装は市場の状況を踏まえUnityで開発するが、ファイルフォーマット自体は特定プラットフォームにロックインしないように気をつける(現在実装上やや怪しいところもありますが、少なくともなるべくそうあろうとする)
いままで作られてきたモデルデータは、なるべくVRMへ載せることができるようにする(フォーマットにモデルデータの仕様をあわせるのではなく、なるべく中間層として多様なモデルに対応できるように努力する)
といったことを指針として置きました。VRMの定義自体はなんてことはないJSONの拡張情報のように見えるのですが、そこに至る情報の選択にはそれなりに気をつけています。
このフォーマットは2018年4月16日に一般向けにリリースしました。実際にリリースしてみると「このモデルではうまくいかない」「この形状では正しく動かない」みたいなデータが次から次へと出てきて、やはり3Dデータの道はなかなか手強いなと感じています。
また、VRMについては、ともかく「まずは広く使ってもらってファイルフォーマットとしての地位を確保する」ことを最優先しました。理念だけ立派でも使ってもらえなければ意味がありません。カッチリ細部や将来性を見据えて複雑に作り込むよりも、まずは目の前の現実の課題に対応したものを。使う側が「どう使っていいかわからない」ようにならないよう、するべきことがわかる、絞り込まれたものを。フォーマットの定義よりなにより、使いやすい標準実装を。
こういった方針は人によっては非常に拙い、拙速に見えたと思います。が、VTuberのムーブメントが急速に盛り上がっていたこのころ、「そもそも需要があるかすらわからない」ものを作っている状況ではこれが最適解でした。幸いこれらの狙いは意図通りに進み、2018年12月「VRMコンソーシアム」立ち上げに向けた発表を行うところまでこぎつけることができ、また、Khronosグループとの連携も進められるようになりました。あらためて、使っていただいた、支持していただいたみなさんに御礼申し上げます。ありがとうございます!
新規のファイルフォーマットをアプリケーション皆無の状態から立ち上げここまで8ヶ月。この期間にしてはなかなか良い線行っているのではないかと思います。今後はもう少し「ちゃんと」進めていけるように後追いでもろもろ整備していくことになります。
VRMの今後
前述のとおり、2019年2月に「VRMコンソーシアム」が立ち上がります。これはフォーマット自体をコンソーシアムで独占しようとか、フォーマットをクローズドにしていこうというわけではなく、フォーマットを基盤として「アバタービジネス」を考えていく上で何が必要かを議論していく場です。現在参加申し込みを受け付けていますので、興味のある会社はぜひコンタクトいただければと思います。
アバターは、創作物であるとともに「パーソナリティを伴った存在」になるので、著作権と利用許諾と人格権がからんできて、きちんと処理しようと思うと、各企業とかクリエイターの思惑の連立法的式を解かないといけない。今は解けてないけど、解く条件を定めるためにコンソーシアム化、と理解している。
— Munechika Nishida (@mnishi41) 2018年12月20日
2019年のうちは、きたるべき「VRM1.0」に向けて細部の調整を進めていくことになると思います。海外需要向けへの調整、不足している仕様・情報の追加、ライセンス情報の再整備などやるべきことはたくさんあります。標準実装もまだまだ変だというところもありますし、別のプラットフォームへも対応を広げていかなくてはならないでしょう。(先日カシカさんからMayaからのエクスポータが発表になりました!!)
先々はアバターの服やアクセサリーなどの要素をアバター自体と分離し独立して販売などできるといいなと思うのですが、これは技術的にもビジネス的にもどう設計したらいいかまだまったく思い至っていません(限定的なアクセサリ程度ならアタッチポイントを埋め込むなどで対応できるかもしれませんが…)。こういうのがいいんじゃないか!みたいなアイデアがあるかたはぜひ教えてください
VR世界を横断する未来へ
さて、そんなわけで今日VRMコンソーシアムを立ち上げるという話が一歩進んだわけですが 自分の思い描く夢のVR世界にはまだまだ足りないピースがあったりする のだが…。「思い描く」だけでは何も解決しないのだな 自分の理想の未来は自分で作らないとやってこない という話もまた明日します
— MIRO (@MobileHackerz) 2018年12月20日
「自由にさまざまなVR世界で遊び、コミュニケーションし、冒険する」という未来を夢として思い描くとして。
そしてそれを夢やフィクションにとどめずに実現し「自分で体験する」にはどうすればいいか?を冷徹に考えたとします。
自分の結論は、「SAOのような広大かつ精緻なVR冒険世界、多種多様で無限に広がる空間は一企業一サービスでは(当面の間は)作れない」でした。もちろん現代のAAA級オープンワールドゲームのように莫大な資本を投下し作り込めばかなりのものができるでしょう。でも、それが見られるのははたしていつになるのだろうか?5年後?10年後?それとも…?
どこまでもどこまでも行ける、多様なVR世界。それを「全部」一企業が作りきることはできないかもしれない。が、一「部屋」なら作れるかもしれない。
なんでもできる、無限の可能性を持つVR世界。それを作りきることはできないかもしれないが、とても面白いVRゲームは作れるかもしれない。
そうしたら、そういったさまざまな世界を繋ぎ、自由自在に行き来できれば。
全部繋げたら、きっと「広大かつ多種多様なVR空間」になるのではないだろうか。
そのためには、何が要るだろうか?まずは、基本となる自分の「体」が、複数のプラットフォームで「同一」であること。そこだと思います。VRMとVRMコンソーシアムは、その「体」を定義するために産まれました。
VTuberのムーブメントからはじまったこの一連の流れですが、まずアバターは「タレントが現実の姿にかかわらず自分のタレント性を発揮するためのツール」として注目され、そこから「わりと普通の人がアバターを用いてコミュニケーションを楽しむ」フェーズに入りつつあります。
Twitterで常時コミュニケーションしている人で、もはや相手の顔よりもTwitterアイコンのほうがパーソナリティをイメージしやすいという現象に覚えがあるかたも多いのではないでしょうか。つぎは、きっと、VR世界のアバターに対して同じ感覚がやってきます。
そのとき、アプリケーションによってパーソナリティが変化することのないように、「アバター」にポータビリティを持たせることは遠からず必要になってくるでしょう。そう思いませんか?
2018年は、こういったことが発見され、整備された1年でした。実に面白い1年でした。
2019年は、きっと、もっと面白い年になります。